『「人殺し」No.80』

私は人を殺したことがある。

殺意はそんなに無い。

偶然に遭遇しただけだ。

自己の責任が欠落しているのか、どうかではない。

そういう処に話は持って行けない。

とにかく私は、その場所に行かなくてはならなかった、のである。

人はあっさりと自分の死を受け入れる。

もう少し生きようともがけば、生きられたかもしれないのに。

私ならそうする。

そうする気持ちだ。

腰抜けだからな。

生き抜いたいんだよ。

まぁ実際こうして今も、のうのうと生きている。

人殺しなのにな。

警察にも突き出されずにな。

二人の娘は其々に結婚し、もう孫も五人いるよ。

妻は去年、病気で亡くしたがね。

最高の妻だったさ。

今の私はこの広い家に犬と暮らしているよ。

のんびりとな。

もうこの歳だから行くことは無いが、戦争なんてまっぴらごめんだ。

       ほな!

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。