『最後の変身』

公美丘真守は一つの決断を迫られていた。

ヒーローを続けるか、人質として誘拐された最愛の人を助けに行くか。

事の発端は2日前、真守が住んでいるアパートに一通の封筒が届いた。

差出人は不明、普段一人暮らしをしている大学生に手紙を送ってくる相手なんて限られている。
実家には先週の三連休に帰省した、学費は一年分払っているので納入金の通知もこない。
検討がつかない。どんな理由で送って来たか真守には全く心当たりがなかった。

差出人が書かれていないのもおかしい。疑問に浮かべながらも真守は封筒の中を見る。

手紙はワープロか何かで打たれているみたいで誰が書いたかは分からない。

ただ手紙に書れている内容と最後に書かれていたものが問題だった。

内容はこう書かれていた。

『やぁ公美丘真守くん、元気にしているかな?こちらはどこかの誰かさんと違ってあまり調子が良くないんだ。
つい先日も仲間と部下が返り討ちにされたからね。先週もそのまた先週も私たちを邪魔する輩がいて、そのせいで最近寝不足でね困っているわけさ。もし良かったら体に良い食べ物とか教えてくれないかね?

とまぁ近況を挟みつつここら辺で本題に入らせてもらおう。
単刀直入に書くが、キミの大事な人をしばらくこちらで預かることにした。この手紙を読んでいる頃には既にこちらが身柄を預かっていると考えてもらって構わない。
一般人を人質として巻き込むことは私たちの主義には反するのだが、背に腹はかえられぬというわけだ。

私たちが誰なのかは気付いていることだろう。彼女を自由にする条件は今後一切変身するのをやめたまえ、そしてあの指輪をこちらに渡すのだ。こちらの要求は以上だ。

最後によからぬことを考えるのはやめたほうがいい、人質を救いたければな。日時と場所はにもう一通の手紙に記載する。
キミが絶対応じるだろうねグリーンサファイヤくん。 ドクタータカギ』

真守が封筒を探るともう一枚の手紙も見つかる。その手紙には16日、正午にF市GD港一番倉庫、一人で来い。剣とバイクは置いていくように。latrone(ラトノーネ)よりと書かれていた。

手紙に書いてる日付は明後日を示していた。F市は真守が住んでいるS市の隣で電車で1時間かからない。

今からでも指定されている場所に行き、彼女を救い出したかった。
しかし、言う通りにしなければ彼女の身が危ない。何故自分の住所がバレているのか、見当がつかないが奴等ならやりかねない。

普通の人があの手紙を読んでも何が書いているか理解できないはずだ。日常を生きている人達にとっては。

公美丘真守、いやグリーンサファイヤはある組織に所属し正義の味方をしている。祖父から受け継いだグリーンサファイヤの指輪と家に伝わる変身ポーズを取ることによって彼は正義の味方グリーンサファイヤになることが出来る。

古よりこの国ではヤクザ、マフィアなどの悪党が闇の世界を作り影から支配していた。
その闇を退け民を守ろうと大富豪の家に生まれた真守の祖父が悪党達と戦う為、ある組織を作る。その組織の名前はGEMMA。

GEneral 総合
Malignant 悪意のある
Military 軍の
A member 一員

の略(対悪党総合軍、 後に対犯罪防衛組織GEMMAとなる)

GEMMAが出来てから警察では対処できない悪党達との戦いが始まった。だが敵も対GEMMAで纏まり、latroneを作った。意味はラテン語で泥棒。そして幾度もぶつかり合い父が生まれる頃まで続けた。

最終的にGEMMAが遂に長い間分からなかったlatroneの本拠地を発見し、多大の犠牲を払いながらも首領を倒し壊滅させた。お陰で犯罪は激減した。

と戦った誰もが思っていた。しかし2年前latroneを継ぐ者たちと名乗る集団に国営放送局を乗っ取り、latrone復活を世界に向け発信した。

世界の人々は何を言ってるか分からないままだったが、各国の首脳達は慌てふためき、警察に組み込まれていたGEMMAの再結集の命令が全国を巡った。

latroneは決して人質をとらないというルールがある。直接の被害は宝物の強盗のみだったが過去にテログループ、狂信者団体、麻薬の密輸人、兵器開発組織などの資金援助をしていた。

当時高校生だった真守は病院にいた祖父からこの話を聞かされ、後を継ぐようにお願いされる。祖父はその後latroneを止めれないことを悔やんだあと息を引き取った。

両親はそのことを知らなかった。だけど祖父がたまに遠くにいる感覚を父は覚えていたらしい。

そのあとlatroneは世界中で悪業を重ねつつけた。数々の都市が被害にあい、治安が悪化し世界は救いを求めた。

その声に応え、両親の反対を押し切った真守は祖父の後を継ぎ、GEMMA所属グリーンサファイヤに変身してlatroneと二年間戦い続けている。

真守は悩みに悩んだ。祖父の意思、世界の平和と大切な彼女を天秤にかける。

比べられるはずがなかった。彼女は昔からの幼馴染で幼稚園からずっと一緒に過ごしていた。恋に発展するまでに16年もかかり、真守から告白してやっと付き合うことが出来た。ヒーローとしての秘密を打ち明けた時も応援してくれた。

自分が生きてきた時間のほとんどを支えてくれた人。大切な人の命が危ない、でもヒーローをやめることは出来ない。彼の頭で二つの選択肢がぐるぐると結論が決まらないまま回り続けた。

結局どちらも選べないまま約束の日が来てしまった。真守は約束された時間の1時間前に倉庫の前に訪れた。

人が居る気配もない薄暗い場所に倉庫はあった。港は昼間だというのに鳥の鳴き声が聞こえてこないぐらい不気味であった。

指輪は祖父から受け継いだ時から左手の人差し指にはめている。彼女の安否が不安で仕方なく、彼の鼓動は高ぶったまま時間は過ぎていった。

それから40分後倉庫の方から
「お前がグリーンサファイヤか?」という声がした。

真守はその声に肯定し、彼女は無事かと返答した。 先程の声は

「それはお前の選択次第だ、早く中にこい」と返事をした。

その声の後に倉庫からガチャと鍵が解除される音が鳴り、倉庫の扉が開いていく。

「ナオ、無事でいてくれ」

真守はそうつぶやいた後扉に近づき、倉庫の中へ入っていった。

倉庫の中は夏だというのに涼しかった。いや肌寒いと言うべきか真守は危険を感じ警戒した。そのあとだった。

「よく来てくれたね公美丘真守くん」

その声と共に倉庫の奥にある荷物の後ろから一人の白衣の男が現れた。隣には蜘蛛の顔した人間が手錠をかけられた女性を引っ張っていた。

「タカギ、ナオを、、、彼女を早く離せ」

真守は白衣の男を睨みつけながらいつでも変身出来るように構えをとる。

「おっと真守くん、約束を忘れていないかい?」
その言葉にハッと我に帰り、真守は構えを解く。

「そうそう、利口な人間は好きだよ。さぁ約束を守って貰おうか」

ごめん爺さん、俺はナオを助けたい

真守は人差し指から指輪を

>ミックジャギーさん いえいえ!読みたいって言われるのが嬉しくて、嬉しくて本当にありがとうございます。

初めて3000字近い内容の物を書きました。スペルの意味は調べましたが間違えていたり、誤字、脱字等あればコメントいただけると助かります。感想は励みになります。よろしくお願いします。

>ミックジャギーさん コメントありがとうございます! ヒーロー物が大好きで書きたい気持ちを抑えれませんでした。思いを全て込めれたので一応完結にする予定でした。ですが読みたいと言っていただけたので、最後まで書ききろうと思います。読んでくださりありがとうございました!