『病室の葉』

外の木の葉が1枚落ちたら、俺は死ぬ。
こんなくだらない事を考えるほど、病室は退屈だ。
この日々が始まったのは、昨年の夏頃から。会社の健康診断で検査に引っかかり再検査となり、見事病人となった。
俺の病は進行が早いらしく、一日たりとも予断を許さないとの事だ。
当の本人は病の自覚がないのが何より悲しい。

話は変わるが、俺は読書が趣味だ。
運動が苦手で人付き合いも上手くない俺にとって、唯一夢中になれること。
読書が好きになったのは中学2年生の頃、『よしの書店』という小さな書店に出向いたことから始まった。
その日は少年誌の発売日で学校帰りにワクワクしながらこの書店に行った際、書店の看板娘に俺は恋をした。

それから少年誌の発売日になると書店に立ち寄り、看板娘を眺めていた。
時は流れ、少年誌から小説に変わり、ビジネス本なんてものに口実は変わったが、書店に立ち寄る目的は変わらなかった。

毎週のように出向いていたので、看板娘に顔を覚えられていた。好きなマンガの話、小説の話、本を通じて好みの女性と話をする時間に高揚する心がわかった。

俺が社会人1年目の時、看板娘は俺に現実を叩きつける事を告げた。
「私、今度結婚するの」
それ以来、よしの書店には立ち寄っていない。
社会人になり、会社近くで一人暮らしを始めたため、地元にあったこの書店には行かなくなったんだ。これが自分に対する俺の言い分だ。

意識が病室に戻る。
「現実は悲劇だな」

男はポツリとそう言った。
その日の夜。木の葉が1枚落ちた。

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