『電車』

いつもの時間、いつもの電車、いつもの車両に乗っている20代前半くらいの女性に片想いをしている。
最初は偶然だったけど、何度か見掛ける度に恋に落ちたようだ。

話がしたい!けど、不意に話し掛けたら変な奴だと思われそうだ…さて、どうしよう。
そうだ、彼女の前で財布を落とし、拾ってもらった時に偶然話し掛けた事にしよう。

翌日、僕は彼女を車両で見つけ、電車の揺れを利用して少しずつ近づいた。そして、おもむろに財布をポケットから取り出し、彼女の前に落とした。
思惑通り彼女は財布を拾ってくれて、僕に渡してくれた。
ありがとうございます…!
小声でお礼を言った僕に彼女はこう返した。
「今日で五人目です、私の前で財布落とした人」
えっ?
車両を見渡すと、僕と同じように財布を握りしめた男性が大勢いた。

片想いのラッシュアワーの中に僕はいた。

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