『過ち』

おはようございます」機械だらけの部屋に可愛らしくて綺麗な声が響いた。
「まさか、本当に完成するとは・・・」男はぼそっとつぶやいた。
顔・声・髪型、すべてにおいて完璧に作られたその女性ロボットは、誰が見ても美しいと感じることができる唯一無二の存在だった。
「あなたがマスターですか」と男に向かっていうと
「僕は・・・あの・・・」とたじろいた。
女性ロボットは首を右方向にちょうど34度傾けて、
「私はまちがっていましたか?」と聞いてきた。男は
「いや...僕が君をつくったマスターだ」と言った。
「マスター、おはようございます」と女性ロボットが言ってニコっと笑った。

女性ロボットは、何もしらない赤ちゃんのようだった。洗濯機に入れる洗剤の量がわからず、洗剤をすべていれてしまい、泡だらけにしてしまったり、掃除をさせると逆に部屋が汚くなったりとそれは、ひどいものだった。
何か間違ったことをするたびに女性ロボットは首を右方向に34度傾けて
「マスター、私はまちがっていましたか?」と聞いてきた。
「そうだね、君は少し間違っていた。でも次は必ず上手くいくよ」と男はいつも励ましていた。
ただ、料理だけは全く上達せず、とてもじゃないが口にできるレベルではなかった。

失敗ばかりの女性ロボットも男の励ましがあってか、だんだん成長していった。
女性ロボットが何かうまくできると、男は「よく頑張ったね」と頭をなでていた。
なでてもらうたびに、女性ロボットは、何か自分にできることはないだろうかと探してた。
すべてはマスターに褒めてもらうために。

ある時、女性ロボットが突然、男に聞いた
「マスター、愛とは注ぐものですか、受け取るものですか」と。男は突然の質問に動揺してしまい
「えっ」と言ってしまったので、女性ロボットは、またいつもの首を右方向に34度傾けて
「マスター、私はまちがっていましたか?」と聞いてきた。
しばらくして、男は答えた。
「愛とは注ぐものだよ。」そうすると女性ロボットは男を急に抱きしめ
「マスター、私は今まで言語表現できなかったものを注いできました。これが愛だったのですね」と言った。
男は「そうかもしれないね」と言いながら優しく女性ロボットのハグを振りほどき、自分の部屋に戻った。

ある日、男の家に白衣を着た老人と女が訪問してきた。女性ロボットは
「どちら様でしょうか?」と尋ねると老人が女性ロボットの肩をもって
「すばらしい、研究は成功だ」と叫んだ。
男が部屋から出てくると、女は男に抱きつき
「あなた、本当に成功したのね。おめでとう」と言って、キスをした。
女性ロボットは
「その女性もマスターに愛を注いでいるのですか」と男に聞いた。
男は、申し訳なさそうに

「すまない、君の抱いているのは愛ではなく私が組み込んだプログラムなのだよ。それがどのように芽生えるかを確認するためのロボットが君だったんだ。」
というと女性ロボットは

「マスター、もう少し詳しく説明してください」といった。
すると老人が「これ以上は、データ破損の危険がある。脳内チップに蓄積された情報を守るためにも、
早速研究室でデータ抜き取り作業を行おう」と老人は言い、
女性ロボットを連れて行こうとした。

男は「少しまってください」といって女性ロボットに聞いた
「最後にやり残したことはあるかい?」
女性ロボットは「最後にマスターに最高のお料理を作りたいです。」といって
暖かいスープを作った。
それを最後に、老人は女性ロボットを手動運転モードに切り替えた。

研究室では老人が女性ロボットの脳内チップを取り出そうと、特別な椅子に座らせ、頭には特殊な機械を付けた。それはまるで死刑で使われる電気椅子にそっくりだった。
脳内チップを取り出される前に女性ロボットは、首を右方向に34度傾けて
「マスター、私はまちがっていましたか?」と小さくつぶやいた。
そして「マスター、私待っていますから」と言い切る前に動かなくなった。

男は、部屋に一人、しんみりした気分で女性ロボットが作ったスープを飲み干した。
女性ロボットが最後に愛と同じように注いでくれたスープは最高においしかった。

3時間後、男は倒れ死亡した。

音声のみの朗読形式で楽しみたい方はこちらから! https://youtu.be/8PWTA36WEE0