『こんな大人になってはいけない』

 三郎は宿題の作文に悩んでいた。テーマは『私のお父さん』だから。
 作文が苦手な三郎には困る難題。
 腕を組みながら考えに考え、なんとか思い付いた。
「名前が変わってるから、それを書こうかな」
 さあ、シャープペンで書いてみようと意気込むが、手が止まって書けないのである。
 考えに考え、父に聞いてみることにした。

 茶の間に行ってみると、父は酔っぱらっていた。テレビに映るアーティストの曲を真似して歌いながら、自分が迷惑かけていることも知るよしもなかった。
 とてもじゃないが、話しかけられないため、扉の前に立ちすくんで、覗いていた。
 酒の悪臭が鼻に来る。眉を八の字にして、鼻を手でつまんだ。
 すると、テレビを消して、歩き出して、父の方から話しかけてきた。
「三郎、どうした? 何かあったのか?」
「うん、ちょっと宿題の作文でお父さんのことを書かなきゃいけないから、聞きたいことがあってね」
 父はもちろん尋ねる。
 三郎は溜め込み、勇気を出して言った。
「お父さんってさ、何で名前が八六《はちろく》なの?」
「そんなの知らねーよ」
「知らないの?」
「お前も飲むか」
「僕は未成年だからいい」
 ゲップをしながら答えた父の情けない姿は普段より情けなく感じたのでした。

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