『願い事』

○クラスの願い○

「もしも願いが叶うなら。」
教室の黒板に教師がデカデカと書いた。
どんなことでもいい。とのことなので生徒は思い思いに自分の願いを書いた。
じゃあ、〇〇くん。と教師は指名して発表させる。

「大金持ちになりたい。」と、男の子。
「世界一周してみたい。」と、女の子。
「自由が欲しい。」と、明るいやつが言って、笑いが起きる。
「宇宙人に会いたい。」と、オタクが言って、笑いが起きる。

そして、教師は続けて「クラスの願い」として一つの願いにまとめるように言う。
私利私欲な意見ではなく全体のことを考える意見が多くなり、それを一つにまとめる過程で議論は白熱した。
様々な意見の中で世界平和を願う意見が多く、それに反論する生徒は少なかった。
最終的にクラスの願いは世界平和に決まった。
教師は、皆さんの素晴らしい願いが現実となるように正しい行いをしていきましょう。
と言ったところでチャイムがなり授業が終わった。

○世界の願い○

「私は神だ。願いを一つだけ叶えよう。」
世界の中心にある広場で、男はそう言った。
ボロボロの布切れから2本の腕が見え、自分たちとは違うその風貌から宇宙人が来たぞ。と騒ぎになった。
面白がって集まってきた群衆は、神と名乗る男が起こす超常現象を見て、彼が神であること疑うものはいなくなった。
神は言った。
「この星の全員で話し合い、意見を一つにまとめること。」
そうして各国の首脳陣が集まり、世界の願いを何にするのか会議が始まった。
最終決定権は世界大統領に委ねられた。
「この星では戦争が絶えない、神の力でも借りなくては戦争は終わらない」と防衛省。
「より一層の科学の発展を、それにより皆の生活も豊かになることだろう」と科学者。
「我らの医療技術は高い水準にあるが、死者の蘇生は、神にしかできない」と医者。
会議は難航した。全員が納得するような意見など存在しないかのようにも思え、世界大統領は願いを決める決定打が欲しかった。
全員が納得するような願いとは、どんな願いなのだろうか。
意見は全て素晴らしく、全て叶えて欲しいくらいだ。そう思ったとき。
世界大統領は妙案を思いついた。
「みんな。聞いてくれ、、、」
世界大統領の案にみな納得した。そうして願いは世界平和になった。
「願いが決まった。我々は世界の平和を願う。」
すると神は、
「わかった。その願いを叶えよう。しかし君らの言う世界平和の定義とは?」
世界大統領の狙いはこれだった。世界平和を成し遂げる過程で戦争をなくし、科学や医療を発展させる、そうすれば多くの意見を全て実現できる。
「まず、戦争をなくして欲しい。そして戦争が起きる原因でもある資源不足を解消する技術を進歩させてくれ。」
「わかった。」
「一つ聞きたいのだが、どうやって戦争を無くすんだ?」
「簡単だ、まず現在、戦争をしているものを全て消し、また戦争を引き起こす思想を持つものも全て消す。」
あまりにも物騒な意見に大統領は絶句した。
「なんだって!もっと平和的にできないのか?」
「戦争とは概念的なものではない。戦争を無くすには戦争をしているものを消すしかないのだ。」
そんなことをしては一体どれだけの人が消えるのか。
「申し訳ないが、少し考えさせてくれ。」
ダメだった。やはりそう簡単にはいかないか。大統領が考え直していると神は、
「この方法は”やはり”好まないのだな。」と言う。
やはり、と言う部分に大統領は引っかかる。
「やはり、とはどう言うことだ?」
「前の星でも世界平和と言われた。先ほどの方法で戦争を無くすことを伝えるとお前と同じ反応をして却下されてしまった。」
「前の星?この宇宙に私たち以外に生命が存在するのか?」
「ああ。存在する、”チキュウ”という星だ。」
世界大統領は驚きと同時に閃いた。彼が大統領に選ばれたのも、このひらめき力によるものだった。
「その”チキュウ”という星は我々の星よりも文明は進んでいるのか?」
「ああ、”チキュウ”ではもうこの星を見つけている。」
「他の星を見ることができるのか!なんて技術だ。そのチキュウに行く、という願いは叶えられるか?」
「お前一人か?」
「いや、できれば全員はいいのだが。」
「ならば、星を交換しよう、その方が都合がいい。地球の周りを回るこの星と同じくらいの大きさの星がある。」
これで文明はかなり進む。科学も医療も何もかも、そして戦争をしているどころではなくなるだろう。
世界大統領は6本ある腕でガッツポーズをした。

こうして月は交換され、地球人と宇宙人の交流が始まり、
 
オタクの願いは叶えられた。

○個人の願い○

オタクは怒っていた。
今日は授業で、もしも願いが叶うなら。というテーマで話し合いをした。
なんでもいいというので、宇宙人に会いたいと書いた。
みんなの前で発表すると笑いが起きた。
「宇宙人なんているわけねーだろ。」と。
SF好きのオタクは宇宙人の存在を信じていた。
それを否定され、馬鹿にもされれば怒るのも無理はない。
帰り道、空を見上げてオタクは思った。宇宙人に会いたい。
と、空に何か見えた。飛行機かと思ったが、だんだんと落ちてくる。それが人であることに気づく。
エレベーターのように滑らかに降りてきた男はオタクの前に立つ。ふわふわと浮いていた。
「ま、まさか、宇宙人?」
「いや、私は神だ。」
混乱するオタクを気にせず神は話を進めた。
「願いを一つだけ叶えてやろう。なんでもいいぞ。」
オタクは半信半疑だったが、願い、と聞いて今日の授業が頭に浮かぶ。
「じゃあ、世界平和でも叶えてよ。」
「了解した。」また飛んで行こうとする神にオタクは聞いた。
「具体的にはどうやってやるんですか?」
「簡単だ、まず現在、戦争をしているものを全て消し、また戦争を引き起こす思想を持つものも全て消す。」
「そんな、物騒な!」
もしも仮にこの男が神だった場合が怖くなったのでオタクは願いを取り下げた。
「ダメなのか?ではどんな願いがいい?」
オタクは大きな願いはやめ、個人的な願いにすることにした。
「じゃあ。宇宙人に会いたい。」
「わかった。」
神は飛んで行こうとする。
「どこへ飛んでいくんですか?」
「他の生命体がいる星だ。」

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