『ドラッグ、ドラッグ、グッドラック』

脳が焼けるくらい熱くなり、体中を縦横無尽に駆け巡る血は狂ったような速さで流れ、心臓はドクンドクンと体内に警報のように響き渡る、こんな最高の感覚に毎朝付き合わされるのも、もう今日でおさらばだ。

昔の人が今の世界を天国から見ていたら死んで良かったと思うだろう、働くためや勉強をする前に薬を摂取するのが当たり前になるなんて、もしも神様が「汝を生き返らせてやる。」なんて言っても全力で断るだろう。
それぐらい今の世界は狂っている
日々テクノロジーは進化し、そのせいで仕事はどんどん姿を変え多様化し進化する。
そして仕事量は膨大になり、それに対する圧倒的な人材不足のせいで現代人は薬を飲んで膨大な仕事量に対応する。
この世界では、治せない病気はない。
車が部品を交換したり、修理をしたりして、常に買ったときのような最高のパフォーマンスを保つことができるように、人間の体も壊れてたり古くなったり不具合のある細胞は薬で治したり、人工で作られた拒否反応のない臓器と交換する。
人間の体は消耗品という考えになり、常に私達の体は最高の状態でキープされた。
そのせいでこの世界では老人はいない、外に出て30代後半以上の容姿をした人間に出会うことは不可能だろう、この世界では30代後半以上の細胞年齢だとこの世界では働いていけないからだ。
この世界は常に若々しく、エネルギッシュで、そして血の通っていない胸糞悪い世界となってしまった。

私は朝起きると空港のセキュリティゲートのようなものに姿を通す「イジョウハゴザイマセン。」と面白みのない機会音声が、私の体の健康状態を教えてくれる。
そして体が全て入る大きなカプセルの中に入ると、すべての身支度が一瞬で終わる。
リビングに行くと「おはよう。早くゴハン食べよう。」と妻の愛莉が座って待っている。
木製ダイニングテーブルの上には、黄金のような焼き目のクロワッサン、月のような輝きを放つオムレツには食欲をそそる匂い放つウィンナーが添えれ、様々なカラーストーンを混ぜたようなサラダ、琥珀色のヨーグルト、周りを中和する美しいブラックコーヒー、ダイニングテーブルはまるで至高な絵画を見ているような美しさなのだが、それを全てぶち壊すように小皿に1錠申し訳なさそうに薬が置かれている。
「おいしそうだな。」
「そうでしょ。本当にアンドロイドを買ってよかった。」と愛莉はクロワッサンを頬張りながら満面の笑みで言った。
「あのロボットそんなにすごいの?」
「ロボットじゃないア・ン・ド・ロ・イ・ド。だって材料さえあれば、設定した時間内に料理ができているんだよ。朝からこんな品数つくれないし、ここまで美味しく作るのは絶対に無理。」
「そうなんだ。」
私はア・ン・ド・ロ・イ・ドの作った料理は嫌いだ。
まずくても良いから人間が作った料理のほうが好きだ。
だけどこの考えはこの世界では時代錯誤で、昔を懐かしんでいる老人のたわごとのようだと、今私と一緒に食事をしている女性や私よりも50年も長く生きている会社の部下に言われた。
食事を終え、会社に出かける。
「薬を飲まないと。」と愛莉が私をひきとめる。
「車の中で飲むよ。」とぶっきらぼうに言ってしまった。
だがそんなことは関係ない、愛莉はご自慢のアンドロイドの仕事っぷりにご機嫌で、「いってらっしゃい、仕事がんばって。」と天使が吹くトランペットの音色ような心地のよい声で私を送り出した。
玄関を出ると、自動運転の車が私を会社につれていく。
車の乗りエンジンをかけるだけで、この乗り物は僕を会社という地獄につれていく、車の窓で景色を見ると、皆忙しそうに電話をしたり、スマートフォンやノートパソコンでとても重要な仕事をしているのだろう、まるで人間の姿をした働きアリのようで私は嫌になり目を閉じた。
「モクテキチマデアト400メートル」と車が地獄にもうすぐ着くこと教えてるれたので、私は超人になれる薬を1錠口に含んだ。
脳が焼けるくらい熱くなり、体中を縦横無尽に駆け巡る血は狂ったような速さで流れ、心臓はドクンドクンと体内に警報のように響き渡る。
この薬は能力活性剤で、子供はこの薬を勉強薬と言い、この世界では当たり前に使われている。
この薬は脳の中枢神経系に作用し脳の能力を100%を働かせる。
製薬会社は有名女優や有名なモデルを起用し大々的に広告を打ち出しとっつきやすいものにし、政府もこの超人薬に多額の補助金を出し製薬会社を援助した。

会社にデスクに到着すると、「資料をまとめておいてほしい。資料はサーバーに入れておいた。」とおそらく27時間働いている上司に頼まれた。
パソコンを立ち上げ、サーバーにアクセスし資料をに目を通した。
昔ならこの資料を全て目を通しまとめるのに、おおよそ1ヶ月かかる。
だがこの薬のおかげで、資料の内容は食べ物を食べるように感じるように理解でき、資料作りはモーツアルトが曲を作るようにスラスラと作れた。
この薬があればみんなが天才になれる。
薬の効果は約6時間で1時間ごとにモニターに”薬を摂取してください。”と警告のポップアップが表示される。
薬が切れると体がちぎれるそうなくらいの疲労感や倦怠感が襲い、脳は溶けてなくなってしまいそうな頭痛が襲い、心臓は壊れてしまいそうなくらい暴れまわる。
それから逃れるためには、ふたたび薬を摂取するか睡眠とるかしなければならず、睡眠は薬の副作用から逃れるための道具に変わってしまった。
私はそれが嫌でしょがなかった。
私は人間だということを自覚したくて、毎日2時間睡眠をとっていた。
そんな私を皆は「睡眠なんて意味のない作業まだやっているの?」や「睡眠なんかとらなくったて薬飲めばいいじゃん。」とか言って薬物中毒者どもにバカにされた。
薬が切れ、神の怒りみたいな激痛が私の体内を貫く。
私は震えながらカバンから薬を取り出し摂取する。
あれだけ体中を駆け巡った激痛は治まり、私はバイオ燃料をバレル単位でぶちこまれたように私の体は動き出し仕事に戻る。
こんな人間として扱われないような作業をローテーションして、20時間働き会社をあとした。

自動運転車にルートを入力し、あとは目をつぶれば目的地に到着した。
到着した場所はヨーロッパの教会のような建物で、中に入るとアルコール消毒液のよう匂いがした。
総合カウンターで手続きを済ますと「本当によろしいのですね。」と受付の女性に言われ、私は「もちろん。」と満面の笑みで答えた。
白衣を来た女性が現れて「こちらへどうぞ。」と言われ、先を歩く女性に付いていき、厳重なドアを2つ通って、床も壁白い部屋に入った。
そこはまるで天国の入り口のようで中央に大きなカプセルがあった。
カプセルを開け「お入りください。」と言われ、私は中に入り横になった。
「準備はよろしいですね。心残りはございませんか?」と女性に言った。
「なにもないよ。やっとこの素晴らしい世界とお別れをすることができてワクワクしているよ。」と答えると、女性は表情を変えずカプセルを閉めた。
私の前を白い煙がモンシロチョウが優雅に飛んでいるように浮遊し、私は目を閉じた。

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