『ペーパーズ・ウォー』

じめじめとした薄暗い洞窟の中、身を潜めている者たちがいた。ミュータントである。人間の研究により生み出された彼らは、過酷な実験から逃れるために研究所から逃げ出しここに潜んでいたのだ。復讐の時を伺い、過酷な環境の中必死に耐えていた彼ら。幸いなことに彼らは人間の数倍もの寿命があり、何かを食べなくても生きていくことができたのだ。彼らに生殖能力はなかったがそれでも着々と新たな超能力を身に着け、数百年後には復讐を実行する力を得た。そして誰が言うでもなく彼らは復讐の時が来たことを理解した。洞窟の入り口を爆破し外に出る彼ら。外には敵がたくさんいるはずであった...が...
 
人間は滅亡していた。正確には数人残っていたのだが知能は馬鹿になっており、あと数年すれば死に絶えてしまうだろう。ミュータントたちは困惑しそして怒りを持て余した。復讐されるはずの人間たちが馬鹿になっているのだからしょうがない。とはいえ数百年分の怒りを解消したいのは事実。なので人間を増やし賢くすることにした。自分たちが逃げ出したころの人間の水準にまで文明を発展させ、そこで復讐を実行するというわけだ。幸い超能力があるので大した設備はなくとも人間の生活を立て直すことはたやすいことであった。人間は増え続け、文明を築き、国ができていった。
 
そしてまた2000年以上がたった。彼らはいなくなっていた。普通に老衰で死んでしまったのである。人間が彼らに復讐される水準に達するには時間がかかりすぎたのだ。それでも彼らは人間に忘れられてはいない。天地を創造し、人間を導いた神々として記憶されている。ちょうど科学が発展した産業革命の時代のすぐ前に彼らは死んだ。そのころから神様は信じられなくなっていった。実際にいないのだから仕方がない。ニーチェが言った。「神は死んだ」。そう、神は死んだのである。老衰で。

柱の男たちが浮かんだ