あの動画を遺し、彼女が亡くなって数十日たったころ、
ひらりと手紙が届いた。
この世界では、死んだ人が一通、450字以内の手紙を送ることができるのだ。
手紙にはこう書かれていた。
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親愛なるシロへ
知ってると思うけど私の身体はこの世から消えました。
一つ目の死を迎えました。
でも、あなたは生きています。
私と違って生きているんです。
地面を踏みしめて
風を切って走ることが出来る
愛する人を抱きしめることが出来る
だから、
もし、私が死んだことを引きずって暗い気持ちになっているのなら
私のことなんて忘れてください
せっかく生きているのに暗い気持ちでふさぎ込んでいるなんて
勿体なさすぎる。
「忘れないで」なんていったけど、
それがあなたの鎖となるのなら
どうか、忘れてください。
忘れられて
私のお墓に誰も来なくなったとしても
すこし悲しむかもしれないけど
あなたが幸せに過ごしているのならそれでいいんです。
それは、あなたが私を想って苦しむ姿を見るより何倍も幸せなことだから
優しい奥さんと家庭を築いても
仲間とかけがえのない日々を過ごすでも何でもいい
とにかく、幸せになってください。
私はあなたとそうすることが出来なかったから。
それで、人生楽しみきったら
私のもとにその話を聞かせに来てください
それまでは紅茶でも飲みながら見守ってます。
サラより
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手紙の最後には勿忘草が押し花になって入っていた。
それは、いつかサラがぼくに教えてくれた花だった。
あの声が聴けないと思うと、また涙が出た。
花が大好きだったサラに、ぼくは花で返事を送ることにした。
今日も彼女の傍らにはいつもスターチスの花が生けてある。
タツナミソウ
花言葉は「私の命をあなたに捧げます」
勿忘草(ワスレナグサ)
花言葉は「私を忘れないで」「真実の愛」「思い出」
スターチス
花言葉は「変わらぬ心」「途絶えぬ記憶」
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