『電波を送る誰かと』

 ぴーぴーぴー。

 こちら惑星、地球のどっかです。

 ぴーぴーぴー。

 おうとうねがいまーす。どーぞ。

 ぴーぴーぴー。

 へんとうありませんよー、どうぞー。

 ぴーぴーぴー。

 あーあー。

 ぴーぴーぴー。

 うーん。

 ぴーぴー。

 おーい。

 ぴー。

 ・・・、たすけてー。

 -----------

 ある日、そんな電波を拾った。

 それはひどく初歩的な電波送信によって行われており、祖父の年代物の無線機のチューニングをしているときに受信してしまった。最初はなんだこれはといぶかしんだ、なにせ、誰かに伝えようとする意図があるとも思えなかった。あまりに無軌道な内容に最初は呆れかけたが最後の方で、少しだけ僕の指が揺れた。

 どうしてかはわからなかった。こんなことどうだっていいじゃないかと、僕の中の誰かが言ってもう一人の僕もそれに同意した。

 そう、どうだっていい。こんなこと、気にしなくたっていい。ただのいたずらだろう。それか、辛いことがあるのかもしれないけれど、そんなことは僕の知ったことじゃない。適当に返事したところで何になるわけでもないし。それがその先、具体的な何かにつながるわけじゃない。半端な優しさは何も生まないのだ。

 そんなこと、わかってた。

 そんな結論とは裏腹に僕の指は動いていた。

 ぴーぴーぴー。

 えー、こちらも惑星、地球のどっかです。聞こえてますか。

 ぴーぴーぴー。

 たすけることはできないけれど、とりあえず返事してます。どーぞー。

 ぴーぴーぴー。

 もう、切っちゃったかなあ。

 ぴーぴーぴー。

 そこまでやって、僕はため息をついて発信機を置いた。そりゃそうだ、向こうはさっきあきらめた感じだったしなあ。しばらく返事が来ないかと、無線機を仰いでみる。10秒、20秒、30秒、待ってさっきの言葉はどこにも届いていないことを確認する。

 ふう、と息を吐いた。妙に強張っていた肩から力が抜ける。

 やっぱり無駄だったのだ。仕方なく、席を立った。

 そこでふと気が付いて、僕は静かに息をのんだ。

 ぴーぴーぴー。

 みつ・・・けて・・・・くれたの?

 その返信は雑音まみれで、泣いているのか鼻をすすっているのかひどくて聞けたものじゃなかった。でも、確かにさっき電波を流していた誰かの声だった。

 どんな人なのだろう。恐怖はあった、答えていいのかも未だ、分からなかった。なにせ、僕には何もできやしない。

 それでも誰かが、僕の背中を押した。

 とんと押されて、そのまま発信機を取った。

 ぴーぴーぴー。

 みつけたよ。みつけたんだ。

 ぴーぴーぴー。

 届け、届け、届け。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。