ある時期、私はみはると一緒に暮らしていた。
その子は家庭内の事情から家出をして、電車に乗り当てもない旅をして私の住む町までやってきた。
そして、私は路頭に迷っていたみはるを拾い上げ、私の家に上げた。
そこからみはるは私の家に住み着いていった。
なんてことはない生活が、そこにはあった。
私はみはるの世話をした。最初は理由がわからなかったけれど、そうすることで、私はみはるに重ねていた昔の自分を、自分自身で助け上げることのできなかった。自分を助けようとしていたみたいだ。
みはるが少しの間、家を出た日、そんなことに気が付いて、そして私はそのことをみはるに話した。
みはるは私の話を聞いて、今まで話してこなかった自分の生い立ちや家出の経緯を話してくれた。
「本当に、とてもとても、言葉で言い表すのがとても難しいんですけど、うれしかったんです。助けてもらえて。逃げ出したときは世界に私一人みたいで、もうどこにも行けないような気がして。自分の居場所なんてどこにもないような気がして。でも、なつめさんが手を取ってくれました。本当に、本当にありがとうございました」
「あれは、みはるがたすけてって言ったからだよ。言わなきゃ、私は何もしてなかった。それに全部、みはるを助けたことは私の都合だよ?」
「それでも、です。いえ、むしろそれでいいんです。だって、理由もなしに助けたら神様みたいじゃないですか。理由がわからないなんて怖いです。でも、なつめさんはちゃんと理由があって私を助けて、それでなつめさんもどこか救われてたんですよね?それならそれでよかったって思いますよ」
「もっと、いい人がいたかもしれない」
「はい。でも、あの時、あの場所で私の手を取ってくれたのはなつめさんなんですよ」
しゃべっているうちに、涙がまたこぼれてきた。なんでかはわからない。悲しいわけでもないと思う。ただ、心がとてもぐちゃぐちゃで、まるで大昔にため込んでいた涙が地面の奥深くから湧き出してきたみたいだった。
みはるはとてもやさしい笑みを浮かべていた。
みはるの両手が私の頭に回る。私より小さな少女に抱きしめられる。小さな子どもをあやすみたいに。
「本当に、本当にありがとうございました。なつめさんがいてくれて本当に救われました」
「ごはん、おいしかったです。カレーいっぱいでしたね、でも私甘党なんで実はちょっと辛かったです。
前の休日になつめさんとずっとごろごろしてたのも楽しかったです。ほんとごろごろしてるだけなのに、それだけで寂しくなくて、しんどくなくて。
洗い物、私からするって言ったのにあんまりしなくてごめんなさない。甘えちゃってごめんなさい。
でもありがとうございました。本当に、本当に、ありがとうございました。
家族みたいで本当に私なんかがこんなところにいていいのかなって不安だったけど、なつめさん優しいから
――――優しいから」
声が震えだして、泣き声に変わった。
小さな子どもの泣き声がする。みはるの声だ。私の声だ。いつか泣くべき時に泣けなかった。小さな子どもの声だ。
それから、私たちはずっとずっと泣いていた。
泣き忘れた時を取り戻すみたいに、ずっと、ずっと。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なつめさん、私、家に帰ろうと思うんです」
この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。