『ウサギのぬいぐるみ』

ウサギのぬいぐるみ、それはわたしの一番のお気に入り
ツギハギで、わたしの背と同じくらいある。
許される限りどこにいくにも持っていくほどの大事なもの。

「赤ん坊でもないのにぬいぐるみがそんなに大事なのか」
そう言われることもあるし、自分でも可笑しいと思うけど、これはどうしようもない。

人が怖い。
理由は、ただそれだけ。

家族も友人も関係ない。
優しくされても、怒られても、何をされても
そこにわたしを蔑む眼や嫌う言葉があるのではないかと勝手に疑って、
近づいたり触られたりすると途轍もなく気持ち悪く思ってしまう。

だから人を拒絶して、壁を作って
ぬいぐるみを抱き締める。
触れられるのが怖くて、その仮面の下のところに触れるのが怖くて。

自分から逃げているのに、自分から拒絶しているのに
心は何かを失った悲しみがあって、そこに人の愛を求めてしまう

怖くてたまらないのに、心に触れてほしくて
嫌でたまらないのに、温もりを求めてしまう

別に、虐待を受けていたわけでも、酷くいじめられていたわけでもない。
むしろ理由がわかっていたほうが救われていたかもしれない
この矛盾した気持ちの責任を自分以外の何かに擦り付けることができるんだから

だから、ぬいぐるみを抱きしめるのだ
ふわふわとした、このぬいぐるみを。

ぬいぐるみは、手を握り返してくれないし、抱きしめてもくれない。
だけど、絶対にわたしを嫌わない
突き放さない

いつか嫌われるのなら、いつか居なくなるのなら、人を愛したくない
愛されたくもない

...愛せない

失うことが、何よりも怖いから。

本当は、愛してほしくてたまらないのに

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