『Scarlet Incarose』

「先輩!お誕生日おめでとうございます!」
「有難う。…僕も、もう祝われる年ではないのだけどね」
「先輩だってまだ20代じゃないですか!それに、何歳だろうと恋人の誕生日は祝いたいものなんです!」

 私の差し出した花束を抱いて、先輩は静かに微笑を零した。
 優しい視線の落とされた先、陽だまりの花笑む腕の中で、群れるように咲いたミニバラの深紅が淡く綻びる。

「__ね、先輩。付き合い始めた時、7本の薔薇を贈った事…覚えてます?」
「ああ…確か、『密かな愛』という意味だと教えてくれたな」
「今回お渡しした花束、実は101本あるんです。101本の薔薇の意味は『これ以上ないほど愛しています』。そして、これで先輩に贈った薔薇の数は108本…」
「…まさか」
「そうです、そのまさかです」

「先輩。私と、結婚して下さい」

 先輩は驚いたように目を見開いたけど、やがて観念したように息を吐いた。

「…分かったよ。流石に、今すぐと言われたら厳しいけど」
「やった!勿論、将来的にです!先輩のウェディングドレス姿、楽しみです!」
「僕は着るなんて一言も言ってないけど」
「着てもらうに決まってるじゃないですか!折角の結婚式なんですから!」
「そもそも式を挙げるつもりも無かったし」
「挙げます!私と先輩が永遠を誓う姿を見てもらうんですよ!」

 困ったように笑う彼女だけど、何だかんだで私に優しいのを知っている。
 初めて会った時から、彼女は私の憧れだった。男性のような口ぶりで、常に冷静で大人びていて。それでいて飾らない彼女の佇まいが眩しくて、当時の私は恋に落ちた。
 …それでも、彼女との日々を重ねるたび、言葉に出来ない不安が滲み出して行ったのも事実で。告白だって私からだったし、私の我が儘に先輩を付き合わせているような気がしていた…のだけれど。

『年齢なんて関係あるのかい?年上の責任だとか関係なしに、僕は”君”という男性が好きだから隣にいるんだ』

 やっぱり、先輩には敵わない。私の全てを見透かして、私の一番欲しい言葉をくれる。
 私にとっての彼女はいつだって、誰よりも素敵で誰よりも大切な女性。

「私が大学を卒業したら迎えに行きますから!よそ見しないで待っていて下さい!」
「…心配しなくても、僕は君しか選ばないよ」

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