太陽が沈む頃、あるいは太陽が沈みきった頃、少女は老婆に声をかける。
「その荷物、重そうですね。少し持ちましょうか?」
老婆は笑顔で返事を返す。
「おや、ありがとうねえ。親切な子じゃ。これを持ってくれるかい?」
手渡された袋はやはり重かった。
「明日は孫の高校卒業式でねえ。つい買いすぎてしまったよ。」
少女は笑顔で返し、老婆はそれきり一言も喋らなかった。
5分ほど歩き、息の切れつつある老婆はT路地を左に曲がろうとする。少女は肩に手を置いてそれを制止する。
そして5秒後、一台の車が音もなく左から右へと通り過ぎた。
少女は肩から手を離し、老婆は何事もなかったかのように歩き出す。
家に着くと、老婆は階段を登ってドアを開けようと左を向く。
お互い目が合い、老婆が驚き、そして怒りに満ちた顔で言った。
「わしの荷物を勝手に持っていくんじゃないよ、この泥棒!さっさと返せ!」
老婆は階段を駆け下り、少女から荷物を乱暴に奪い取って、急いで階段を上りドアを開ける。そしてこちらを一瞥して小声で言った。
「なんてしつけのなってない子じゃ。」
老婆が家に入り、ドアに鍵をかけるのを確認した少女は裏口へ行き、ポケットから鍵を出してドアを開ける。それから急いである部屋に入り、制服に着替える。そして何事もなかったかのように老婆を迎える。
「おかえり、おばあちゃん。」
すると、少し驚いた様子で言った。
「ああそうか、高校卒業式の前日は早いんだったのう。」
「おばあちゃん忘れてたの?やっぱりそろそろ年だね〜。」
「何言ってんだい。わしはまだ50歳なんじゃからボケるはずなかろう。」
と言いながら、嬉しそうに食事を作り始める。
老婆は楽しみにしているのだ。5年前に終わった高校卒業式を。
太陽が沈む頃、あるいは太陽が沈みきった頃、仕事帰りの少女は老婆に声をかける。
「その荷物、重そうですね。少し持ちましょうか?」
老婆は笑顔で返事を返す。
「おや、ありがとうねえ。親切な子じゃ。これを持ってくれるかい?」
手渡された袋はやはり重かった。
「明日は孫の高校卒業式でねえ。つい買いすぎてしまったよ。」
少女は笑顔で返し、老婆はそれきり一言も喋らなかった。
そうして彼女たちは卒業式当日の夜を繰り返す。
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