『いつもは降らない赤雨の名』

それはいつもと変わらない日々だった。
その幼女はいつも通り朝ごはんを食べ、学校へ行き、友達と喋りながら帰って、家に入る。
そしていつも通り真面目な顔で祈った。
「神様、どうかおねいちゃんが無事に帰ってきますように」
そう一言言い終えると、いつも通り笑顔で姉を待った。
カラスはいつも通り幼女の日常を見ていたが、この日は祈りの最中に飛び立った。いつもと違ったのはここだけだ。

その昔、幼女が生まれたばかりの頃、両親が殺された。詳しいことはわからなかったが、幼女はとても恐ろしかったこと、姉がぎゅっと抱きしめてくれたことはよく覚えていた。その頃からよくカラスを見かけるようになった。特に気にはしていない。

制服を着たおねいさんはいつも通りの日々を送る。朝食を食べ、学校へ行き、友人と言葉を交わして、まだ幼幼い妹がいる家に帰る。
その日の帰り道、一人の子供と会った。危ないから帰るようにと言って再び日常に戻る。
角を曲がると、フードを被った男がいた。手はポケットに入っていて、遅めの速度で歩いていた。すれ違う瞬間、フードの男はポケットの中のもので、おねいさんの首周りをなぞった。

おねいさんの首からは、まだ赤いものが吹き出している。それは空中でそれぞれが一滴の雫となってフードの男に降り注ぐ。その雨の名前をフードの男は知らない。フードの男は少し残念そうな様子でその場を去った。
いつもはいないカラスがそれを見ていた。

それはいつもと変わらない日々だった。
その幼女はいつも通り朝ごはんを食べ、学校へ行き、友達と喋りながら帰って、家に入る。
そしていつも通り真面目な顔で祈った。
「神様、どうかおねいちゃんが無事に帰ってきますように」
そう一言言い終えると、いつも通り笑顔で姉を待った。
カラスはいつも通り幼女の日常を見ていた。この日は祈りの最中に飛び立った。これもいつも通りだった。

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