蒼い霧が立ち込めている。
その向こう側に村のようなモノが見える。
蜃気楼なのか。
それは見ている私にも解らない。
「教えてくれ」
と声がする。
その声の方を見た。
年老いた木だ。
私は応えた。
「なにをだい?」
すると木はこう言った。
「あなたはこれからどちらへ向かわれるのか」
私は答えた。
「行きたい場所に行けないんだよ。
行き方がわからないんだ。
その場所のイメージも湧かない。
だから自分でもどうしていいのかわからないんだよ」
すると木がこう言った。
「わしはもう何百年もここにおった。
見ての通りわしは木じゃ。
だから何処へも行けないのじゃ。
だからなこうしてわしの近くに来た動ける奴には何処に行くのか聞きたくなるんじゃ。
じゃがお前さんのような人は初めてじゃ。面白いのぉ」
そう言って年老いた木は笑った。
そしてその後は静かになった。
二人とも黙っている。
相変わらず霧は蒼い。
この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。