『「存在」No.8』

老人は言う。

「さぁ早くわしを食べなさい」

私は言う。

「そんなグロテスクな事はできない」

老人は。

「そんな事をいっている場合ではない」

私は。

「言っている意味がわかりません」

尚も老人は。

「解らなくてよろしい。しかし早くわしを食べなさい」

そう言って上半身裸で胸を突き出してくる。
カサカサでシミだらけでブヨブヨとたるんでいる。

「とにかく私は無理です。それに嫌です」

すると老人は落胆した。
大きく「ハァー」と溜め息をついた。
老人はゆっくりと喋り出した。

「わしはなお前に食ってもらわんと終われんのじゃ。
 ここには二人はおれん。
 お前が来てくれたから、やっと終われるのじゃ。
 さぁ早くわしを食うてくれ。もうこんな処にいるのは勘弁じゃ」

何のことだかサッパリ把握できない。

「おじいさんもし僕があなたを食べなかったら、どうなるのでしょうか」

「お前さんがわしを食うてくれなんだら、わしは諦めてお前を食うだけじゃ。
 そしてまた長い間、ここでこうして一人ぼっちで過ごさにゃならん。
 もう止めにしたいのじゃ」

私は混乱した。
落ち着こう。
ここに存在出来るのは一人だけ。
二人になるとどちらかがどちらかを食べないといけない。
そして食べた方がまたここで一人だけで過ごす。
で老人はこの生活をやめたいと思っている。
だから食べて欲しいと。

選択肢は2つだけ、どちらも選びたくない。
困った、目をつむって考えていた。
どれくらい考えただろうか。

気が付いたら、老人にパクッと食べられてしまいました。

                ほな!

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