『「おっさん」No.33』

ある日、大学教授であるおっさんが帰宅途中で犬に出会った。

犬はおっさんに向かって言った。

「なんて可愛いおっさんなんだ、うちで飼ってやるからついておいで」

おっさんは犬に従い犬の世話になった。

おっさんはたいそう犬に可愛がられた。

いつも散歩のコースも決まっていた。

折り返し地点は甘谷駅のロータリーだ。

いつもおっさんはここで、犬と一緒におでん屋に寄り一杯やってから帰る。

それが日課だ。

毎日がとても楽しかった。

それまでのどんよりと感じた灰色の世界が、まるで虹の世界にいるよう、それくらい日常が一変した。

永遠は無い。

どれくらい経っただろうか、とうとう犬にも寿命が来てしまった。

だいたい犬は長くても二十年弱しか生きれない。

おっさんより随分と短い。

おっさんは泣いた、おっさんはこの現実を受け入れる事が出来なかった。

おっさんは毎日、犬を探した。

いるはずのない犬を毎日一人で甘谷駅前のおでん屋で、ヤケ酒を一杯やって帰る。

おっさんは仕事も手に付かず、とうとう大学教授の仕事も辞めてしまった。

それでも毎日、甘谷駅には行く。

おっさんの貯金はとうとう底をつき、住まいも無くし浮浪者同然となった。

それでもおっさんは甘谷駅に来た。

哀れに思ったおでん屋の主人は、おでんのお裾分け。

ボロボロの格好で立ち尽くすおっさん。

ある寒い日、おっさんは現れなかった。

その日を境に。

今では甘谷駅前にはおでんを食べるボロボロのおっさんの像がたっている。

      ほな!

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