扉を開けて中へと入った。
「どなたか居ませんか?」
とても静かだ。
もう一度たずねた、今度は少し声を張った。
「どなたか、どなたか居ませんか?」
少しのタイムラグがあり、奥から声が聞こえてきた。
「はい、はぁい」
ヨボヨボした声だ。
「どうなさいました?」
なんだ、ここには看護師さんは居てないのか。
本当にヨボヨボのおじいちゃんが出てきたよ。
「あのぉすいませんがお腹の調子が悪くて、診ていただけませんか」
また少しのタイムラグが。
「お腹の調子ですかえ。どんな具合ですか」
えっ、ここで話すのか。
「あっ、とえっとですね、昨日の晩からお腹がよじれるくらいに痛いんです」
タイムラグ。
「ほぉー、救急車呼ばれたら良かったのに」
なんでそんな事を言うのだ。
「まぁ、そうなんですが、なんだか救急車ってのも大げさかなと思って、我慢してここへ来た訳ですよ」
タイムラグ。
「はぁー、さよですかぁ。胃ですかいの?腸ですかいの?どこですかいの?」
だからどうして、ここで話をしているんだ。
「胃と腸の両方なんです」
タイムラグ。
「ほぉー、さよですかぁ。それはお気の毒に。で、どうしましょうかねぇ」
えっ、どうしましょうか?
「あのぉ、ここ病院ですよねぇ」
タイムラグ。
「さよで」
さよでやったら診てくれよ。
「だったら診て診断してお薬なり注射なり、なんとかして下さいよ」
タイムラグ。
「あんたをかえ」
そうに決まってるじゃないか。
「そ、そうですよ。他に誰がいるっていうんですか」
タイムラグ。
タイムラグ。
タイムラグ。
「あんたは診られんよ。看板よう見なはれ。乙山犬猫病院って書いてあろうが」
えええっ。
「本当ですか?」
私は急いで外に出て看板を見た。
消えている。
乙と犬が。
もう一度中に入った。
ヨボヨボのおじいちゃんは、誰かに電話してくれていた。
「近所の病院に電話したから、今から行っておいで」
メモを渡された。ヨボヨボの字で山猫病院と。
ほな!
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