『「待合室」No.35』

扉を開けて中へと入った。

「どなたか居ませんか?」

とても静かだ。

もう一度たずねた、今度は少し声を張った。

「どなたか、どなたか居ませんか?」

少しのタイムラグがあり、奥から声が聞こえてきた。

「はい、はぁい」

ヨボヨボした声だ。

「どうなさいました?」

なんだ、ここには看護師さんは居てないのか。

本当にヨボヨボのおじいちゃんが出てきたよ。

「あのぉすいませんがお腹の調子が悪くて、診ていただけませんか」

また少しのタイムラグが。

「お腹の調子ですかえ。どんな具合ですか」

えっ、ここで話すのか。

「あっ、とえっとですね、昨日の晩からお腹がよじれるくらいに痛いんです」

タイムラグ。

「ほぉー、救急車呼ばれたら良かったのに」

なんでそんな事を言うのだ。

「まぁ、そうなんですが、なんだか救急車ってのも大げさかなと思って、我慢してここへ来た訳ですよ」

タイムラグ。

「はぁー、さよですかぁ。胃ですかいの?腸ですかいの?どこですかいの?」

だからどうして、ここで話をしているんだ。

「胃と腸の両方なんです」

タイムラグ。

「ほぉー、さよですかぁ。それはお気の毒に。で、どうしましょうかねぇ」

えっ、どうしましょうか?

「あのぉ、ここ病院ですよねぇ」

タイムラグ。

「さよで」

さよでやったら診てくれよ。

「だったら診て診断してお薬なり注射なり、なんとかして下さいよ」

タイムラグ。

「あんたをかえ」

そうに決まってるじゃないか。

「そ、そうですよ。他に誰がいるっていうんですか」

タイムラグ。

タイムラグ。

タイムラグ。

「あんたは診られんよ。看板よう見なはれ。乙山犬猫病院って書いてあろうが」

えええっ。

「本当ですか?」

私は急いで外に出て看板を見た。

消えている。

乙と犬が。

もう一度中に入った。

ヨボヨボのおじいちゃんは、誰かに電話してくれていた。

「近所の病院に電話したから、今から行っておいで」

メモを渡された。ヨボヨボの字で山猫病院と。

       ほな!

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