『「ロポポ」No.39』

ある所にポポロという男が住んでいた。

彼はある鏡と出会った。

他の鏡とは違う。

特別な鏡だ。

さかのぼること三ヶ月前。

ポポロはアンティークショップへ本棚を見に行った。

良いのがあれば購入する予定だ。

ところがそこでとても素敵な鏡を見付けたようだ。

そんな大袈裟な作りではないのだが、ウォールナットの程よく使い古された枠に、味わい深い鏡がはめ込んである。

なぜなのか分からないが惹きつけられる。

ポポロは本棚を諦めて、この鏡を買う事にした。

というよりもむしろ、この鏡が凄く気に入ってしまったのだ。

ポポロは早く自宅に置いてやりたかったので、配送ではなく自分で持って帰った。

ポポロはこの鏡をリビングの方ではなく、寝室に置いた。

それは気に入っているからなのと、朝晩自分に「おはよう」と「おやすみ」の挨拶をする為にそうしたようだ。

ポポロは随分と長い間一人で住んでいたから。

あの鏡が来てから一週間くらいしてからの事だ。

ポポロは寝ぼけて鏡につまずいてしまった。

幸い倒れなかったから良かったが、右手の一番下に少しだけひびが入ってしまった。

ポポロは右足の小指を抑え、うずくまっていた。

顔を上げた時にそれを見つけた。

ちょっと残念。

でもほんのちょっぴりだったので、諦められたようだ。

しかし、その後にある恐ろし事が起こった。

鏡には部屋の風景はちゃんと映っているのに、ポポロが全く映らなくなった。

どういう事だ。

ポポロは焦って自分が透明人間になってしまったのかと驚き、急ぎ洗面台の所まで行って鏡を見た。

そこにはちゃんとポポロが映っていた。

怖くなった。

ポポロはそれから数日間は鏡を見ないようにした。

数日経ったある日鏡の横を通った時、鏡の方から「キャー」という声がした。

ポポロも驚いて尻もちをついた。

鏡を恐る恐る見る。

するとそこにはポポロと同じように、尻もちをついた可愛い女性がいた。

ポポロは大層驚いた。

鏡まで這い寄った。

すると向こうも這い寄った。

ポポロは声をかけてみた。

「こんにちは、僕はポポロって言うんだ。ここで一人で住んでいるよ」

すると向こう側の女性も。

「こんにちは、私はロロポ。ここで一人で住んでいるわ」

同じだねって言って二人は笑った。

話を聞いてみると、買った動機もポポロと全く同じだった。

それ以来ポポロは朝と晩、ロロポに挨拶するようになった。

ロロポはとっても可愛い。

気が付いたらポポロはロロポと過ごす時間がどんどんと増えて行った。

ポポロにはちゃんと分かっている、ポポロはロロポが好きになった事を。

一ヶ月が過ぎた頃、ポポロはロロポに胸の内を明かした。

そしたらなんという事でしょう、ロロポも同じ想いだったのです。

二人はお互いに惹かれあっていたのです。

その日以来朝と晩はキスをするようになった。

ガラスの向こう側の人とキスをしているのと同じだ。

それでも良いのだ。気持ちさえ伝わっていたのなら。

しかし日を追うごとに、切ない気持ちがどんどん膨らんできた。

ちゃんと温かみのあるキスをしたい。

ちゃんとこの手で抱きしめたい。

手と指を絡ませたい。

頬に触れたい。香りを感じたい。

それはポポロだけでは無く、ロロポも同じだった。

好きなのにどんどん悲しくなる。

ポポロは考えた。

どうやったらロロポの世界に行けるのだろう。

どうやったらロロポが僕の世界に来る事ができるだろう。

色々試してみた鏡に鏡を合わせてそこに自分の顔を出してみた。

永遠に続く二人の影が続くばかり。

結局、何をやっても無駄なんだよ。

あまりにも切なく、一週間ばかり鏡を裏向けにしていた。

ある日ポポロは酔っ払って帰ってきた。

ココロも大胆になり、ポポロは鏡を自分に向けた。

そこにはロロポが待っていた。

ロロポは毎日待っていたそうだ。

ポポロは言った。

抱けないなら抱いている気持ちになりたい。

二人は生まれたままの姿になり、ココロは結ばれたカタチで各々、自慰行為を行った。

ポポロが放つ液体が鏡に飛んだ、ちょうどロロポの性器の辺りに。

それから一週間後、ポポロはロロポから妊娠を伝えられた。

ポポロは喜んだ。

二人の赤ちゃんができた。

ロロポのお腹は見る見る内に大きくなり、十日と十分で赤ちゃんは生まれた。

女の子の赤ちゃんだ。

名前はロポポにした。

ロポポはとても可愛い。

ポポロはいつか絶対に抱こうと思った。

ある晩の事だった、ロロポがロポポを寝かしつけ抱っこをしていた。

ポポロはロロポに言った。

ロポポを抱きたい。

するとロロポは言った。

ロポポだったら、そちらに行けるかもしれませんよ。

そんな気がする。

ロロポはロポポを優しくポポロに差し出してきた。

奇跡が起こった。

本当にロポポがこっちに来る事ができたのです。

柔らかくていい匂いのする赤ちゃん。

ポポロは嬉しくて涙が止まらなかった。

その日は少しだけ抱いてロロポにロポポを返した。

そんなやり取りをしていたが、ちょうど三ヶ月経った時にポポロはある事に気が付いた。

ロポポを受け取る時、僕の手が少しだけあっちに入ってロロポ手もこっちに少しだけ入っていないとロポポは受け取れない。

朝の抱っこの時にそれを気にしながら受け取った。

ポポロの思ったとおりだった。

手が鏡の向こう側に入っていた。

ポポロは考えた。

いい事を思い付いた。

夜を待った。

ポポロはまたロロポからロポポを受け取る時に、今回はロロポの両手も掴み、そのまま二人を引っ張った。

ロロポとロポポが来た。

ロポポが生まれるまであれ程に通れなかった鏡を、ついに二人は乗り越えた。

きっとこれはこの不思議な鏡だからできたのだろう。

そう思わずにはいられなかった。

それ以来、ポポロとロロポとロポポは三人仲良く暮らしました。

もちろん鏡も一緒に。

                ほな!

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