とんでもなく長い鼻の女性が居た。
とびきりの美人だ。
スタイルも抜群で、センスも良い。
性格も素晴らしく、サッパリとしていて相手の立場でものを考える。
喋りすぎず大人しすぎず、
スポーツ万能で頭脳明晰である。
当然ながら彼女は、男からも女からも大いにモテた。
友人は男女共に多い。
これと決めた男性は居ない。
昔は一度結婚をしていたという噂を聞いたことはあるが、本人の口からは聞いたことは無い。
そんなとんでもなく長い鼻の女性にも悩みはあった。
彼女の性格上誰にも相談できないでいる。
どんな悩みなのだろうか。
彼女は休みの日に一人でとある個展に出向いた。
そこで一人の男性に出会った。
男性はそれは、それは気持ちの良いタイプ。
まるで自分を男性にしたら、こうなるのではないか、とさえ思わせる。
そんな彼が言ってくれた。
話せない人が話したい時に訪れる所があると。
時が経ち、とんでもなく長い鼻の女性は、その話はすっかり忘れていた。
忘れていたのだが三年経ったある日、突然思い出した。
なぜ思い出したかって?それは悩み事ができたからだ。
とても大きな事。
人に話せないタイプの彼女でも、誰かに話しを聞いてもらいたかった。
話す相手もいない、話したい人もいない、話せるタイプもいない。
でも話したい。
その時にかつてのあの話を思い出した。
とんでもなく長い鼻の女性は、そこへ行く事にした。
緊張しながらその重い扉をくぐった。
そこには懺悔室を少し広くしたような部屋だった。
部屋は2つに分断されている。
下半分は開いているのだが、上半分は仕切りがあって相手の顔が見えない仕組みになっていた。
理由は簡単で、ここは誰かに話す所。
決まった人に話すと、その人へ依存心が芽生えてしまう。
だから毎回違う人が聞くし、顔が分からないからそのようなこともない。
基本手荷物は持って入れない。部屋の外にあるロッカーに預ける事になっている。
部屋の中にはテーブルがあり、ペンと紙が用意されている。
メモを取っても取らなくてもいい。
もし仮にメモを取った場合は、帰りに入口横のシュレッダーで紙を破棄する。
ここは話をするだけ。
相手に何かを渡しても貰ってもいけない。
とんでもなく長い鼻の女性は、椅子に座った。
少し緊張している。
やや遅れて男性が入室した。
「初めましてAです、よろしくお願いします。
どうぞリラックスして下さい。
何か音楽でも流しましょうか?」
基本ここは名を名乗らない。
話す法はBで話を聞く方はAという事だ。
だから話を聞く方は誰でもAなのだ。
「いえ結構です。このままでお願いします」
そうして彼女は自分の事や今悩んでいる事など、恐ろしく沢山話した。
何時間話したのか覚えていないくらいだ。
とてもスッキリした。
とんでもなく長い鼻の女性は、まるで別人になったような気分になった。
それ以来彼女は定期的にここへ来るようになった。
数年後。
彼女はココロのバランスが整ったのか、それともタガが外れたのか、鼻はとんでもなく長いままだが、ただのおばさんになっていた。
噂によると、何かの新興宗教にドップリはまっているらしい。
ほな!
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