『「感論」No.50』

とんでもなく長い鼻の女性が居た。

とびきりの美人だ。

スタイルも抜群で、センスも良い。

性格も素晴らしく、サッパリとしていて相手の立場でものを考える。

喋りすぎず大人しすぎず、

スポーツ万能で頭脳明晰である。

当然ながら彼女は、男からも女からも大いにモテた。

友人は男女共に多い。

これと決めた男性は居ない。

昔は一度結婚をしていたという噂を聞いたことはあるが、本人の口からは聞いたことは無い。

そんなとんでもなく長い鼻の女性にも悩みはあった。

彼女の性格上誰にも相談できないでいる。

どんな悩みなのだろうか。

彼女は休みの日に一人でとある個展に出向いた。

そこで一人の男性に出会った。

男性はそれは、それは気持ちの良いタイプ。

まるで自分を男性にしたら、こうなるのではないか、とさえ思わせる。

そんな彼が言ってくれた。

話せない人が話したい時に訪れる所があると。

時が経ち、とんでもなく長い鼻の女性は、その話はすっかり忘れていた。

忘れていたのだが三年経ったある日、突然思い出した。

なぜ思い出したかって?それは悩み事ができたからだ。

とても大きな事。

人に話せないタイプの彼女でも、誰かに話しを聞いてもらいたかった。

話す相手もいない、話したい人もいない、話せるタイプもいない。

でも話したい。

その時にかつてのあの話を思い出した。

とんでもなく長い鼻の女性は、そこへ行く事にした。

緊張しながらその重い扉をくぐった。

そこには懺悔室を少し広くしたような部屋だった。

部屋は2つに分断されている。

下半分は開いているのだが、上半分は仕切りがあって相手の顔が見えない仕組みになっていた。

理由は簡単で、ここは誰かに話す所。

決まった人に話すと、その人へ依存心が芽生えてしまう。

だから毎回違う人が聞くし、顔が分からないからそのようなこともない。

基本手荷物は持って入れない。部屋の外にあるロッカーに預ける事になっている。

部屋の中にはテーブルがあり、ペンと紙が用意されている。

メモを取っても取らなくてもいい。

もし仮にメモを取った場合は、帰りに入口横のシュレッダーで紙を破棄する。

ここは話をするだけ。

相手に何かを渡しても貰ってもいけない。

とんでもなく長い鼻の女性は、椅子に座った。

少し緊張している。

やや遅れて男性が入室した。

「初めましてAです、よろしくお願いします。
どうぞリラックスして下さい。
何か音楽でも流しましょうか?」

基本ここは名を名乗らない。

話す法はBで話を聞く方はAという事だ。

だから話を聞く方は誰でもAなのだ。

「いえ結構です。このままでお願いします」

そうして彼女は自分の事や今悩んでいる事など、恐ろしく沢山話した。

何時間話したのか覚えていないくらいだ。

とてもスッキリした。

とんでもなく長い鼻の女性は、まるで別人になったような気分になった。

それ以来彼女は定期的にここへ来るようになった。

数年後。

彼女はココロのバランスが整ったのか、それともタガが外れたのか、鼻はとんでもなく長いままだが、ただのおばさんになっていた。

噂によると、何かの新興宗教にドップリはまっているらしい。

       ほな!

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