『「貸し借り」No.52』

「なぁ金貸してくれへんか」

「嫌や」

「なんでやねん」

「だってお前に貸したら、ちゃんと返してくれるやん」

「それ普通やん」

「だから嫌やねん」

「お金を借りたければ俺の言うことを一つ聞いてほしい。
それをやってくれるならお金は貸してもええよ」

「なんやそれ。
難しいやっちゃな。
なんやようわからんけど、まぁ言うてみなはれ」

「お金は貸してやる。
せやけどわしは今お金を持っていない」

「それやったらそうと早よ言いなはれや」

「まぁ待て、最後まで聞けや」

「ほぅ」

「でな、お金は貸してやるからそのお金は二度と返してくれるな」

「そんなアホな。
それはお金を借りるじゃなくて、もらうやろ。
そらアカンわ」

「最後まで聞けって言うたやろが」

「はいはい」

「でな、その貸す金額もこっちが無作為に決める。
もちろんお前が借りたい金額よりは多い」

「ふん」

「めちゃくちゃええやろ。
借りたのに返さんでよくて、金額も充分な程ある」

「あのさぁ」

「うるさい口を挟むな」

「いやでも」

「なんや」

「だってお金持ってないんでしょ」

「せや」

「こんな話してても仕方がないやん」

「なんで」

「なんでって誰が聞いてもそう言うわ」

「そうかぁ」

「そうに決まってるよ。
だってお金ないんだから無いんだよ。
無いのにお金は返さなくても良い、金額は多めに渡す。
アホやん」

「今は無いけど、すぐに用意するがな」

「えっ用意できんの」

「ああ、用意でけるよ。
今、手元に無いだけや」

「なんやそうなんや」

「おぅ、ちょっと待っとりや」

「ああ、ええよ」

数分後。

彼の手元には確かにお金が。

そしてそのお金はもう一人の彼の元へ。

「こんなにもうてええんか」

「おぅ」

「ほんで返さんでもええんか」

「おぅ」

「ほんまにか」

「おぅ」

「ほんまに、ほんまにか」

「おぅ」

「でも俺こんなに要らんねんけど」

「おぅ」

「でな、できたら返したいねんけど」

「おぅ」

「なぁって」

「しつこいやっちゃな。
返さんでもええっちゅてるやろ。

ほならな言うたろ。
そのお金な君んとこのオカンに事情言うて、拝借したお金やさかいにわてに返す事はいらん」

        ほな!

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