『「逃亡主」No.55』

ジープに乗っている。

アフリカの大地。

ジープに乗っている。

電車に揺られること何時間だろうか、外はもう薄暗い。

目的が無いわけでは無いが、目的地は曖昧だ。

ある駅に到着すると両方のドアが開いた。ホームは片方だけなのに、手の長い少女はホームの無い側を歩いて行った。

終着駅まで来たので、ここからは別の乗り物に乗る。

どうしてここに来たのか、どうしてここに住んでいるのか、人にはよく聞かれる。

熱い情熱などは無い。

絶望も無い。

ただ乗り物を乗り継いだら、そこがここだっただけだ。

家族はいるよ。

同居している夫婦とその夫婦のペットたち。

僕の持ち物はパスポートと数枚の着替えと村上春樹が二冊と新約聖書。

村上春樹は持っていると格好が良いかなと、それだけの動機で二冊。

まだ読んだことが無い。

新約聖書はよく読んでいるよ。

寝付けない夜には最高なんだよ。

いつまでここに居るのかそれは誰にも決めれないよ。

僕自身も分かっていないんだから。

ただとても不便で住みにくい土地ではある。

苦手な虫だらけだ。

どうでも良いけど、そのジープには触るな。そのジープは僕のだ。

       ほな!

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