『「泡欲ば」No.56』

直ぐにキスしたがるのに男の悪口を言う女友達が言う。

「直ぐにさ、やりたがる男っているじゃない。
私って所謂そういう男って苦手なわけじゃない。
この間もちょっとキスしただけで、直ぐに求めてくるわけ。
キスしたくらいで手に入るって思ったら大間違いよ」

こう言っている彼女は、お金とか権力とかそういう男には滅法弱い。

「この間さぁ安倍さんにキスされちゃった。
もうすっごくドキドキしたのぉ。
安倍さんって凄いんだよぉ~。
外資系関連の雑誌に取材受けたり、若手ベンチャー企業の協会理事長やってたり、とにかく凄いんだよぉ~。
キスしたから安倍さんはもう私のモノよ」

当然ながらその安倍なんとかとは偶々一度会ったに過ぎない。

それより言ってやった。

「大切なのは普通だ。
普通に仕事をして、普通に生活をして、普通に幸せになれる男性と普通に家庭を築いた方が良い」

しかし結局うまく伝わらなかった。

上の方にばかり目が行き、気付いたら普通も手に入らなくなった。

今は何処でどうしているのか知らない。

あれから三十年近くも経ったしね。

なのに、何故か思い出した。

多分、今さっき入ったコンビニのレジのおばちゃんが、その彼女と顔がそっくりで名札の名字も同じだったからかな。

      ほな!

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