『「巡り合わせ」No.57』

「た~すけてくれ~」

外から声がした。こんな夜中になんだ。

「誰か頼む、助けて」

仕方無いので外を見た。

そこには近くに住むタメゾウがいた。

「どうしたんだタメゾウ」

「たった今、い、犬がな」

「犬がどうしたんだよ。
ここらじゃあ犬っくらい別に珍しいもんじゃないだろ」

「いや、普通の大人の犬は全然平気なんだよ。
俺はな子犬が大の苦手でな、今もな寄ってきて俺の顔をペロペロ舐めやがるんだよ。
必死に追い払ったさ。
ちょっと腰が抜けちまった。
立つの手伝ってくれよ」

「しょうがない奴だな」

タメゾウに手を貸してやり、家へ送ってやった。

然し乍ら子犬が苦手なんて奴がいるとはなぁ、世の中には珍しい人間もおるもんだな。

次の日の夜、晩酌をしながらラジオを聴いていた。

大好きな演芸放送だ。

その中で何やら面白い話があった。

自分は本当は饅頭が大好きなのに、嘘をついて饅頭が怖いというそういう話さ。

そこではっとした。

ひょっとしてタメゾウの奴、本当は子犬好きなんじゃないのか。

そんな世の中に子犬だけが嫌いな奴なんておらんよ。

これは絶対にこの落語の話で俺をからかったんだ。

チクショこうなったら奴と一本勝負だ。

わざわざこの勝負の為に最近流行り出した、犬猫店で子犬を買ってきたよ。

誰かから譲り受けたら良かったってか。

そんなもんいつ生まれるんだか分からんもんに待ってられますか。

善は急げですからな。少々高くついたが、とてもめんこい子犬の買ったよ。

メス犬でなサチと名付けたよ。

幸せになるようにな。

犬っていうのは人間に比べて大きくなるのがたいへん早い。

そんなもんだから急いでタメゾウとの勝負に挑まなければ。

時間が少しでもできたら、タメゾウの家の周りをサチと共に散歩さ。

サチは散歩が大好きだから、いつも大喜びさ。

しかし一向にタメゾウに会わない。

もう気付いたらサチは大分と大きくなってしもうた。

最近では犬の散歩友達もできて、その中に偶々タメゾウの知り合いもいてなさった。

聞くとタメゾウは私と会った直後に引っ越ししたそうだった。

やっぱりタメゾウは犬も子犬も大好きだったらしい。

じゃああれは何のための芝居だったんだろう。

まぁ良いさ、今はサチが居てくれるから。  

      ほな!

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