『メモ小説1』

夕暮れの日差し。閉まる図書館。本が三冊入ったずしりと重い鞄。黄色く光って眩しい、いつもの見慣れた道。
「あれ、ミナじゃん。また図書館?」
厚い化粧。短いスカート。私とは正反対の性格で、あまり話したことはない同級生。
「うん」
「そっかぁ。ミナは偉いね。成績も学年一番だし。将来は大学行って医者にでもなる?」
返事に困る質問。空く間。
「カナは就職するの?」
ひねり出した質問。我ながら会話下手。
「実は大学に行きたかったりもする。でもうちビンボーだし、頭も悪いし。あきらめるしかないかなぁ」
「でも、やりたいことがあるならやったほうがいい……。ってこの本に書いてあった」
鞄から私のお気に入りの自己啓発本。差し出す私。
「もう三回読んだから、貸してあげる」
「ありがとう。今日読んでみるね」
カナの見たことないキレイな笑顔。私も思わず笑顔。
「じゃあね!ミナ」
私に手を振るミナ。私も振り返す手。
さっきより色濃くなった光が照らすミナの背中。
さっきより軽くなった鞄。
さっきより軽くなった私。

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