『有色』

「愛の反対って何?」
窓を滑る煙草の煙に身体を委ねながら、彼女は僕に問うた。怠慢と憂鬱だけが残ったベッドの上で僕は彼女の方を向く。
「どうしてそんな事きくの?」
「いや、愛を知りたくて」
永遠にも感じた情熱も、今ではあの煙草の燃えかすのように灰となって積もっている。
「無関心、偉人もそういってたよ。」
彼女は煙から身体を降ろしてゆっくりとこっちを向いた。けれども彼女は魅力的だ、そう思う。
「じゃあ赤色は?」
「…青色?」
「どうして?無色じゃないかしら?」
「それはないよ。それなら青の反対も無色だし、黄色の反対も無色になってしまう。反対とは対にならなきゃ」
彼女は悪戯っぽく笑って答えた。
「同じことよ。貴方と私の答えは」
「…じゃあ愛ってなんだい?」
「わからないから聞いたんじゃない」
窓から入射する黄昏のプリズムは部屋を柘榴の実のように橙色に染め上げる。
「もう帰らなきゃ。子供たちも帰ってくる。」
彼女の声は私の鼓膜を揺らす。

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