『剣と盾と一歩踏み出す心を持ちつづけろ』

ぼくはこの村から出たことがない。

地下の村に住む青年、アインはある日思った。

彼の住んでいるココ村は総人口が100人ぐらいの村。天井があり土と岩壁しか見たことがなかった。

みんな出たいとは思わないのかな。

村を出たい気持ちは消えることなく、さらにその思いを加速させる。そして年々積もっていくばかりだった。

そういえば、この村には二人嫌われている人物がいる。

一人はこの村を治めている村長。長い棍棒?村長がいうには木?で出来た武器を持ち、村人に重いノルマを課す。ノルマを守れないとその保護者を棍棒で殴る。アインは今まで殴られたことはない。しかし汚い言葉を吐きながら人を殴っている場面を何回か見かけ嫌いになった。

代々村長はああいうものらしい。アインの保護者であるもう一人の嫌われ者、ロン爺が言うには。

村人から不満があってもこの村を出ることはできない。ぼくらは地下に住んでいる、地上に行くには禁忌の道と呼ばれる螺旋状の道を登り、蓋になっている大岩をどうにかしなければいけない。

この話はロン爺から聞いた。誰も教えてはくれなかった。でもロン爺だけは話してくれる。他の村人はそれが嫌なのかロン爺に酷い扱いをする。でも気にしていないみたい。

ロン爺はよく

「儂は地上に行ったことがある。こんなチンケな村と違い地上には光が差しておる。風が吹き、お天道様が毎日照らしてくれる。そして登ったお天道様が沈むと次は綺麗な宝石みたいなのが空で光るんじゃ」

とアインに語る。

何を言っているのか分からない。光?村にある光苔と村長しか作り方の分からないロウソクしか知らない。

風?お天道様?宝石?分からない。 宝石はわかるけど空?


多分村人も分からないんだろう。ロン爺は村の外に行ったと言うが、村長は耄碌したじじいの戯言だと言う。それより働け、早く宝石を掘って来るよう村人に言う。

この村は畑で黒大根、岩豚の飼育、鉄を加工して食器を作っている。ただこれは全て女性と子どもが行なっており、男達は穴蔵と呼ばれる穴を掘り、宝石や鉄を掘る仕事をしている。

アインは一昨日誕生日を迎え、15歳となった。村では15歳から成人となる。今まで畑で働いてたアインにつるはしが渡され、穴蔵を掘る仕事をさせられた。

もう二度と働きたくない。 見つけた人は褒められ、貴重なロウソクを貰える。しかし見つけられなかった人は村長に怒鳴りちらされ、くじをさせられる。 赤い点が入ったくじを引いた人は一週間村長から暴行を受ける。

横暴でしかない。この村は何もかも村長中心に動いている。両親はぼくが生まれる前に地上に向かったことを最近知った。普段お喋りなロン爺は何故かこの話を避けようとする。なので失敗したのだろう。

それから年月は流れ、アインは20歳となった。2年前にあれほど元気だったロン爺が歩けなくなり、つい先日亡くなった。ロン爺は死の間際彼に向かって

「アイン、お前はこの村を出ろ。儂も息子達も本当はこの村の生まれじゃない。儂の小屋に地下室がある。そこにあるものを使いお前は地上に向かえ」

と言った。そしてその後

「儂の孫、いやあの方の孫であるコルアイン(天の光)よ。 背を向けず前に進め、儂はいつもそばで見ておるぞ」

と今まで見せたことがない笑みを浮かべ、聞き取れない声で何か言った後ロン爺は動かなくなった。

次の日に葬儀が行われた。この村では死んだものは共同墓地にある石棺に入れられる。ロン爺生前お茶が好きで愛用の茶具と共に彼は棺へと入り、村を去っていった。

ロン爺の葬儀が終わったあとすぐに彼が住んでいた小屋へと向かった。葬儀中、村長はロン爺を最初から最後まで貶し、入れて貰えるだけありがたく思えとアインに言い放つ。その言葉に耐えきれなかった彼は村長を殴ってしまった。

拳が村長の顎にヒットしたらしく意識不明、村中は慌てた。捕まったら命が危ないと感じたアインはその場を離れ、小屋に向かい中へと入っていった。

小屋の中は見た事ない生き物の毛皮で出来た敷物ある以外普通の小屋だった。遺言通りに敷物を退けるとそこには一箇所色が違う床があった。くぼみに手を入れ床を持ち上げる。持ち上げてみるとその下は階段になっており、アインは先へと進んだ。

暗闇の中壁に手をつけながら進んでいくと緑の光が照らしている空間を見つける。

そこには扉があり、アインは悩む事なく扉を開けた。

入った部屋には見たことがないものがたくさん置いてあった。何か記号の書かれた見たことのない紙。ごわごわしないマント。木?出来てるみたいな円形の鍋の蓋みたいなもの、そして壁に青白く刀身が光る武器がかけられていた。

アインは、全て手に取る。紙が置かれてた机には腰に下げれる袋と、両親からの手紙が見つかった。 手紙を読むと両親は地上ある王国?に向かったらしい。

手紙をしまい彼は、マントを布の服の上から身に纏う。見たことない緑色をした布、驚くほど体に馴染んだ。まるで昔から着てたみたいに。

次に両親の手紙にあった盾と呼ばれるものを掴む。利き手で持ち、自分を守る為に使うらしい。 まだ違和感しかないがそのうち慣れるだろう。

そして壁にかけてある剣と呼ばれるものに近づく。鉄製じゃないらしい。鞘?が近くにあるのを見つけ背負う。ライザードと手紙にあった銘の剣を壁から取り外し装備した。

アインは自分の常識の範囲外の出来事に困惑し怯えると同時に、村の外見たことない景色が待っていることが嬉しかった。

そのあとは彼を追ってきた村長を含む村人達を巻きながら、奥へ奥へと進んだ。気がつけば彼の何十倍も大きい扉の前まで足を進めていた。

巨大な黒い扉には、剣を掲げよ、勇気を我に示せ

と彫られていた。アインは扉の前で剣を掲げ、文字が彫られていた部分に横斬りを扉に向かって繰り出した。

金属の音は鳴らず扉は斬り裂かれた。

裂けた文字の下には

見事なり と文字が彫られていた。

アインが剣を鞘にしまうタイミングで巨大な扉はゆっくりと開き始めた。

扉の先には階段があり、感じたことのない光がその先を照らしていた。

アインは階段を一段一段登り、前へ前へと進む。そして彼は地上に出ることが出来た。

そして周りの景色を見ながらこう彼はつぶやいた。

「なんて綺麗なんだろう、今ならロン爺の言ってた事が分かる。あの人の言葉は真実だった。今同じものが、ぼくの目の前にある」

彼の目には涙が流れていた。地上に来れた喜びの涙であり、大切な人を失った悲しみの涙であり、自然に対する感動の涙でもある。

涙を流した後、アインは近くにある岩の前で小屋にあったロン爺愛用のナイフの一本を刺した。

7本あるナイフは後に老王の形見と呼ばれ世界の各地に散らばり大地を見守ることになる。

アインはナイフを刺した後立ち上がり自分に語りかけるように

「もう帰る場所はない。でもぼくを待っている人がいる。進むんだ、闇の中を照らす光のように」

と言葉を紡いだ。そして一歩二歩と足を踏み出す。

頭上では夜空に浮かぶ星々が、その歩みを祝福するかのよう光り輝いていた。

このお話は色々な物語や作品に影響を受け生まれました。ですが大元は小さい頃見た夢の一つでした。松明を持った少年が世界を巡り歩くという内容で今じゃ思いつかないものでした。

彼の旅は始まったばかり。 続きを知るものは彼のみですが他の作品を読んでくれた皆様がいたからこそ、投稿できました。まだまだ伝えたい事ありますが、これで〆させて貰います。ありがとうございました!