『終末』

「夢と現の狭間を歩く。」
彼女は恋をそう呼ぶのを、ふと思い出す。
それは走馬灯のように思えた。
星が落ちる夜、炎と煙が泳ぐ瓦礫の中で彼女を見つけたからだろうか。
オレンジ色に燃え上がる炎の中心で、まるで自分が世界の中心にいるかのように、彼女はただじっとそこに立っていた。
「ずっと、君のことを探していた。」
彼女はそう言って、少し口角を妖美にあげる。
「どうして。」
「君がいなければ、現にならないもの。」
「…歩く?」
「うん。」
僕らは炎の中をゆっくりと歩きだした。
空を滑る星屑は、今も重力と共にある。
「大丈夫。ここは狭間だから。」
彼女は優しく微笑んで、それから僕にキスをした。
遠くで響く崩壊の音を背景に、僕らは瓦礫の中を歩いていく。
道などない。それでも僕らは生きている。

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