『申し訳ございませんでした!』

「誠に申し訳ございませんでした!」
記者会見が行われていた。
どうやら新型生物兵器をかの邪悪なA国に撒くはずが我がB国内にも撒いてしまったのだ。
「現在確認されているだけでもA、B国のほぼ全国民が感染しているようです」
記者達の騒めく声がする。
「どうなってるんですか!?」
「ふざけるな!!」
「責任を取れ!」
様々な野次が首相の元へ届く。
「皆さん!一度落ち着いてください。何度も説明した通り、我が国で死人が出ることは絶対にありませんので!」
「信じられるか!」
「黙れ!このマヌケ!」
記者達の怒号は止まらない。
焦った様子の首相の背後から白衣の男が現れて隣に座った。
「えーお静かに。今回の件は我々の責任です。確かに取り返しのつかない失態を犯しました。ですが、このウイルスはA国のあの邪悪な独裁者の名を呼ばない限り発症しないようになっております。なので、基本的に皆さまが死ぬことはありません」
その言葉を聞いて会場は静けさを取り戻した。
「なんだ…」
「なら大丈夫か…」
記者達の安堵の声が湧く。
「ワクチンを5年以内に国内に配布予定なのでご安心ください。それまで、かの国の独裁者の名前を呼ぶ際はマヌケとでも言ってください」
今度はその言葉に笑いが起きた。
「○○○・○○○○首相バンザーイ!」
今度は我らが首相を称える万歳の声が響く。
記者も白衣の男も国の官僚達もその様子をテレビ越しで見ている国民達も。
次々と人々は首相の名を呼んで万歳を叫んだ。
我が国の首相の名がB国の独裁者と同じ名であることなど忘れて。

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