『【真夜中の御茶会にて】「私は」』

私は。

私は私が、私であることを理解している。
私が私としてすべきこと、あるべき姿。
それが何であるかは言うまでもなく、
問うべくもなく、
そもそも問う相手もおらず、
つまりそれは愚行というわけだ。

思考は巡る。
存在するはずのないそれは、自問自答を繰り返して、
ただひたすらに脳内に響き渡る。

私は。

私は何故、存在しているのか。
それは考えるまでもなく、望まれたからそこに在るのだ。
みるものが心を寄せるか弱き主人公がいて、
その前に立ちふさがるヴィランがいる。それが私だ。
そう望まれて、生まれた。
それ以上でもそれ以下でもない。他に存在意義もない。

私は。

体と心を与え、紛い物たちは与えた役を生き始めた。
私には、心がない。
紛い物に在って私にない心、とは、いったいなんだ?

私は。

生まれて初めて、一人の夜を長く感じた。

私は。

私の存在を自らに問う。
答えはある。だから生まれた。
正解はある。だがそれが真実ではない。
私の望む何かではない。
私は、何を望む?

私は。

私はただのトランプでしかないと知る。
当たり前の事実を忘れていたのは私のほうだった。
私はただのトランプ。紙切れ。

繰り返し思い出される言葉に痛むこれが、私の心、だろうか。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。