『【真夜中の御茶会にて】「ただのお人形でいられたら」』

感情を隠すのは得意だわ。
元々持ち得なかったものだもの、なかったかのようにふるまうのは造作もない。

白雪姫は私だけの役。唯一の生まれた意味。存在してもいい理由。
代わりなんていくらでもいる私たちだから、私は必ずやり遂げてみせる。
めでたしめでたし、と御話が結ばれるその日まで。

「二人とも、ほんとうに何も感じないの?」

彼女の言葉にはっとしたのは、きっと私だけじゃないわ。
ほんとうは私たちだって気付いてる。
私たちはもう、ただの感情がなかったトランプではないことを。
プリンセスという衣装をまとったお人形ではないことを。
アリスを愛していることを。

でもね、だめなのよ。
それは命令されていない感情だから。
筋書きを外れた登場人物はどうなると思う?
次のページからは消されてしまうの。

心なんてものがなければ。
この時間がいつまでも続いたら、なんて意味のない希望を抱かなかったのに。
心なんてものがなければ。
ラプンツェルの言葉にだって綺麗な笑顔を浮かべていられたのに。
心なんてものがなければ。
シンデレラを失う『もしも』なんて考えずに済んだのに。

心なんてものが、なければ。
私は私が消えることをこんなに恐れなかったでしょうに。

ごめんねアリス。ごめんねラプンツェル。
私は結局自分が可愛いの。シンデレラを手放すことなんてできないの。
だから私は、どんなにそれが残酷で、仕方がない未来でも
白雪姫として、この夢の終わりを見届けるわ。

笑える話よね、とっくに感情なんて、隠しきれないほど溢れてるじゃない。

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