『【真夜中の御茶会にて】「それだけのこと」』

生まれた理由は初めから決まっていた。どうあるべきか、何をするべきかはわかっていた。誰に従うべきかも知っていた。あれこれを考えるより先に体が動くのは、私が酷く従順な僕だったからにすぎないと思う。そうつくられたから、そうで在っただけの話だ。

疑問を持つ脳もなく、抗いたいと思う心すらなかった。シンデレラになったときもそうだ。そうなれと命ぜられ、姿を変えられたから。これはアリスが願ったこと。あの御方が命じたこと。だから私は、偽物のシンデレラを演じる。それだけのこと。

茶番を繰り返す夜。自由な体に加えて、何故か与えられた心というもの。私は私がただのトランプではなくなっていくことに気が付いた。ただ、トランプでないなら、私はなんなんだ。私は、私は。私は、誰?

物語の終わりのように、この夜だっていつか終わりが来る。私たちが決して適わないあの御方だって完璧ではないから。
永遠はない。終わらない夢はない。わかってる。わかってる。だけど、もう少しだけ、このあまったるい夢と幻と偽物でできた夜がどうかもう少しだけ、続いてほしいと願う。

夢は夢だと気付けば醒めてしまう。幻でできた夜と時間と私たちも、もうすぐ終わる。前みたいにトランプに戻るだけ、それだけの話だ。本来あるべき姿に戻るだけ。ああ、ほんとうはもうわかってる。私たちは以前のようなただのトランプにはもう戻れない。白雪姫の言う通りだ、心なんて邪魔で仕方がない。だって、こんなものがなければ私はもっと、きっと。

私たちに何かを変える力はない。抗うだけ無駄。代わりがいくらでもいる私たちは、首を横に振ればたちまちに頭と体を切り離されるだろう。あいつがそうなるところはみたくない。理由はわからないけど、それは、それだけは確かだ。だから何もしない。この物語がめでたしめでたしという言葉で締めくくられるまで、私はシンデレラでいるだけ。そしてトランプに戻るだけ。わかってる、それだけのことだ。それだけのこと、でとっくに済ませられないくらい、私はあの真夜中を愛してる。

あーあ、いやだな。
こんな気持ちになるくらいなら私は、心なんてはじめからいらなかったよ。

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