『【真夜中の御茶会にて】「これは空白のページ、誰も知らない御伽話」』

どうしようもないってわかっていたの。
私の感情とは裏腹に、口から言葉があふれて、手足は動いて、
物語は進んでいくから。

でも、でも、それじゃあ私がいま感じているのは、いったい何?
何のために、私にこんな感情があるの?
アリスとしてじゃない、私自身を誰かみてよ。

それとも、アリスじゃない私は、いないほうがいいの?

声は誰にも届かない。
ああ、今日も物語が終わってしまう。
夢から目を覚まして、不思議な夢だったと結ばれる。

誰か、どうか、たすけて。

「だからな、私らは王子でも騎士でも勇者でもないんだ。嫌なことから逃げたって誰も咎めないだろ。
なんてったって、かよわいプリンセスだからな」
「あははっ!」
「おいラプンツェル!なんで今笑った!?」
「だって、シンデレラがかよわいって!あはは、変なの!」
「お前なぁ、私だって絵本の中じゃ非力なシンデレラなんだぞ?」
「……ふふ」
「白雪姫、隠せてないからな」
「ふっ、ご、ごめんなさい…ふふ」
「私たちの御話ってきっと、嫌なことに立ち向かうための物語じゃなくて、
そこからどう幸せに向かっていくかって物語なんだよね。女の子がハッピーエンドを迎えるための方法。
なんかそれって素敵だよねっ」
「だな、だから私は理不尽上等だ。私には王子が迎えに来てくれるハッピーエンドが待ってる」
「結果的にそうだとしても死ぬのはつらいわ…そうだわ、いっそ今ここで…」
「わー!だめだよ白雪姫!」

まぶしいくらいに輝いた、不思議な真夜中。
何も考えられなくなるほど甘くて、やさしい。
なのにどこか、泣きたくなってしまうの。
幸せで、涙が出そうになるの。

そういえば、前にずっと考えていたことがあった気がする。
なんだったっけ。
忘れてしまうくらいだからきっとどうでもいいことだったんでしょうけど。
でも、どうしてかしら。
心の底から願っていたことのようだった気がする。

「落ち着け白雪姫、早まるな!」
「殺されるくらいなら自分から死んだほうが…」
「アリス大変!白雪姫がまた暴走してるよー!」
「……もう、うるさいなぁ。今夜は何の騒ぎ?」

ま、そのうち思い出すわよね。
愉快な真夜中はまだ始まったばかりなんだから。

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