『Without,』

「俺なんか、アイツの足元にも及ばないから」

 暗いから手繋ご?なんて大きな手に自分の指を絡めれば、君はふと…自嘲するようにそっと笑みを零した。

「…そんな事無いよ。私は…君の良い所、沢山知ってるよ?」
「…優しいな、君は。それでも、これは劣等感とか謙遜なんかじゃない。あの時…アイツが俺を救ってくれたんだ。…アイツは、俺にとって太陽みたいな存在なんだ。いつだって俺を導いてくれて、進むべき場所を教えてくれる道標のような」
 今日は新月だな、なんて不意に呟いて、君は夜空を…満点の星空を仰ぐ。…その瞳に映る無限の星屑は、深い闇に散りばめられて、道標なんて無しに瞬いていて。
「アイツがいなかったら、今の俺は無かった。…こうして君と星を見る事も無かったかもしれない」
「…そう、かもね。私と君が仲良くなったの、彼のお陰だし。…でも、もしあの時彼が仲を取り持ってくれてなくても…私は君を好きになってたよ?」
「…ッ、君はそういう事言うから…」
 夜目にも分かるくらい染まった顔はすぐに逸らされてしまったけど、手は繋いだまま。
「…君が『星』になれば良いんじゃない?そしたら…太陽なんて無しに、君は1人でも進めるでしょ?」
「…そうすれば良いのかもな」

 煌めいた夜空を見上げて、星明かりに照る横顔は仄かな微笑を零す。
 静かに瞬いた星原の隙間で、君の微笑みだけがいつまでも優しく浮かんでいた。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。