『色のない世界』

私がその中に入った時、私の目の前には色のない、モノクロの世界が広がっていた。
私以外の誰もが軍隊のように遅れもない揃った動きをし、私以外の誰もがまるで教科書に書いてあるかのような素晴らしい意見を言っていた。
私以外の誰もが白黒だった。
私だけが異質だった。
私だけに色があった。

私より年上の大人の人たちは、私を怪物を見るような目で見ていた。
私の周りの同い年の人たちも、私を奇怪なものとしてみていた。
私はみんなのように揃った動きはできないし、私はみんなのような素晴らしい意見を言うことはできなかった。
そんな私にだけ色がついていた。
だが、少ししてそんな私の色はなくなり、私も白黒の人間になった。

私以外の人たちが異質な私を排除しようとしたのだ。
みんなのように揃った行動ができない私は邪魔だったのだ。
私は追い詰められ、白黒の人間たちに殺されそうになった。

だから、私もみんなと同じ動きができるように努力した。
みんなと揃った動きができるようにみんなの動きを真似て、みんなのような素晴らしい意見が言えるように
みんなが言っていることを真似た。
そんな日々が続き、私はついにみんなと同じ、揃った動きができて教科書のような素晴らしい意見が言える人間へと成長した。
みんなを真似る努力を続けていく内に私の色はだんだんと薄くなっていって、みんなと同じ行動ができるようになっている頃には、私の色は無くなっていた。

確かに今まで私についていた色が無くなったのはちょっぴり残念だけど、これで良かったんだ。
だって、みんなと同じ行動ができなければ私は排除されてしまうのだから。
白黒の人間たちに殺されてしまうのだから。
だから色が無くなるのは仕方のないことなんだ。
それに、今はとっても楽なんだ。
誰かの動きを真似て、綺麗で美しい意見を言えばいいだけなのだから。

そうだ。これで良かったんだ。

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