『君の背中』

やだ。こっちに来る。
しゃがみ込んで、靴紐を結ぶ、
振りをした。
じっと眺める。
靴紐は、ぴったりとシンメトリーの蝶々結びを描いている。
腋と背中にねばっこい汗が流れ落ちた。
おねがい。早く通り過ぎて。
息を止めて、地面に転がる石ころにでもなったように
気配を消す。

君は私に目もくれず、友達と肩を組んで
笑いながら歩いていった。

耳を澄まして
君の笑い声が聞こえなくなってから
ゆっくり私は振り向いた。
君の背中が見える。制服の白いシャツはいつも通り
皺一つない。
少し茶色く染めた髪の毛が風になびく。
こうして背中を見つめることしかできない私は
臆病者。

私にもう少し勇気が出たら
君と向かい合える日が来るのだろうか。

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