『権利収入』

家族全員仲の良いSさんのお家はいつも賑やかでした。Sさんは愛妻に恵まれていました。その間に子どもを授かり、毎日がとても幸せでした。息子にはにはタロウ、娘にはシズエと名付けました。

そんな幸せな毎日を過ごしていたSさん一家でしたが、悲しみのどん底に落とされました。交通事故で娘のシズエが亡くなったのです。

警察の調べが終わり加害者はトラックの運転手だと分かりました。Sさんも奥さんも憤り悲しみ深く心に傷がつきました。タロウは妹が死んだことが信じられず、妹が好きだったおもちゃで遊ぶようになりました。

そして裁判がなされ、運転手には多額の慰謝料が請求されることとなりました。運転手は死刑を免れましたが、その先の人生もずっと遺族にお金を払い続ける義務を背負わなければなりませんでした。

悲しむ夫婦、精神を病んだ息子。誰から見ても痛ましい悲しむべき事故。そして家族の様子がそこにありました。

加害者の運転手はSNSで住所を特定され人殺しとして世間から見られ、連日顔も知らぬ多数の人間からの電話や手紙を受けました。住んでいるアパートに投石もされ、手紙の内容は「死ねば良いのに」というものばかり。

とうとう気が滅入った運転手は自殺しました。これにより困ったのは遺族であるSさん一家です。Sさんも奥さんも急に娘が死んだことで多額のお金を手に入れ、慰謝料として継続的な収入もできました。それによりSさんは会社を辞め、加害者からの収入で暮らし始めていたのです。

ところが加害者は死んでしまい、収入がなくなり困りました。そこでSさんはタロウに「シズエのところに花を持っていってやろう」と言い、深夜に連れて行きました。そこに奥さんも同伴し一家全員でお供えに向かいます。道路には深夜であるためスピードを上げる車もいます。そうした車が通るのを待ち、タイミングを合わせてタロウをその車の前に突き飛ばしました。突き飛ばす直前に妻は持って来た懐中電灯を車のフロントガラスへ向け運転手の目を眩ませました。

タロウは死にSさんと奥さんはそれぞれ悲しみに打ちひしがれる父親と母親を演じました。

今でもSさん一家は明るく楽しい家庭です。おや、もうすぐお腹の子どもが生まれるみたいですよ、、、

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