『埼玉県境踏破記録 ~7 天気はギリギリセーフ~ 』

照は目的が決まるともう止まらない性格で、極寒ビバーク(緊急野営)をしてもその熱は覚めることはなく、次の山行を計画した。因みに照にとって登山とは修行のようなもので、通常山岳会では山行を『さんこう』と言うが、照にとっては『やまぎょう』であった。
多摩川源流の水干と、将監小屋の間を埋めるのを目的にして、周回ルートにした。奥多摩を抜けて、山梨県に入ってから国道を離れて林道に入る。狭くて対向車が来たら大変な道を抜けると、登山口近くに民宿見晴らしがある。駐車場として使わせて貰おうとしたら、隣に古い型のBMWが駐車されていた。『BMWで登山とな、変わった人もいるもんだ』管理人不在のため、駐車料金を専用ポストに投函してから出発。今日は天気がイマイチで曇っているが、雨が降り出しそうな重い雲ではなかった。林道に入って間もなく横道の尾根道に入る。鹿避けの柵を開けて通過、この地域はとにかく鹿が多い。山奥過ぎて猟師も入って来ないからだ。
緩い傾斜の尾根道を地道に登って和名倉山から縦走した時に通過した道に飛び出した。『県境に到着だ』小休止を挟んで、進路を西に変更する。奥秩父縦走の人以外に歩く人の少ない区間であるため、整備はあまり行き届いていなかったが、新しく出現したと思われる崩落地には、ちゃんとした迂回路が設けられていた。やはり天気は良くないため、辺りは真っ白にガスっていて、少し寄り道すれば非常に展望の良いと噂の西御殿岩があるのだが、諦めて通りすぎた。唐松尾山は笠取山よりも標高は高く、多摩川源流の山としては唐松尾山の方が相応しいという意見もあるようである。
そこを通過して暫く歩くと見覚えのある水干に到着した。前回は秋で、今回は春先であり、伏流水の位置に違いがあったり、最初の一滴が見れたり、違いを楽しんだ。『最初の一滴は貰った!』とか一人で遊んだ。
『さて、ミッションクリア、車のところに戻ろう』照は、ガスで真っ白にていて、背丈よりも高い笹薮の回廊を歩いている時に、『これがサスペンス劇場だったらスコップで土を掘り起こす』音が聞こえてきそうだと思いながら通り抜けて駐車場に戻った。行動時間5時間のショートコースではあったが、幻想的な景色の中を歩くのも悪くはないと照は知ることができた。
【歩行距離14km、行動時間5h、県境5km】

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