『適材適所』

「水をください」
通勤の道すがら、貧相な老婆が座りこんでいた。
誰を見るわけでもなく、地面に対して呪文のように言葉を吐いていた。
喉でも乾いているのだろう。
私はそれを見るなり自動販売機で緑茶を購入し老婆の視線の前に置いた。
「どうぞ」
しかし老婆は激高した。
「こんなお茶なんかで体が洗えるか!ふざけるな!」
そして緑茶を思いっきり私にかけその場を離れた。
どうやら老婆は洗身のために水が必要だったようだった。

放心した私は一度帰宅し身支度を整えることにした。
さっさとシャワーを浴びて出直そう。
「……ん?」
いくら捻ろうと冷水が出てくるだけで、お湯が一切出てこない。
故障でもしたのだろうか。
先ほどのことも相俟って苛立ちが募り、思わず叫んだ。
「こんな水なんかで体が洗えるか!ふざけるな!」

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