『似た者同士。赤い蜘蛛、百合。』

「おや? こんなところに若い男がいるなんて」
老齢の女性は物珍しそうに僕を見る。
「彼女が僕にプレゼントを持ってきてくれるらしくて、迎えに行こうと思いまして」
「それは関心ね」
女性は頷きながら幸せそうな顔をする。
「旦那と暮らして長くなるから、そんな気持ちも忘れてしまったねぇ。甘酸っぱいような、切ないような」
「申し訳なさしかないですよ。近くにいられない歯がゆさや悔しさで胸が張り裂けそうです」
「おやおや。若いのに案外真面目なのね」
からかうように、わざと驚いたような顔をしていた。
「遠くにいても贈り物を届けてくれる彼女さんなんて、なかなかいないわよ?」
「そうなんですかね」
「ええ、そうよ。あなたは幸せ者よ。……かくいう私も、そんな一人だったのだけど」
「僕らと同じですね」
「一緒に暮らしてからというもの、今じゃあ構ってもらえなくなっちゃったからねぇ」
やれやれと女性は肩を竦め、溜め息を吐いた。
「そんなことないと思いますよ。旦那さんもきっと後悔してるんじゃないですか。あなたと時間を共にできなかったこと。それに、あなたに好意を伝えきれてないこと」
女性は今度こそ驚いたような顔をして僕のほうを見て、しばらくの放心を経て笑った。
「あなた、若いのにしっかりしているのね」
「……なにか変なことを言いましたかね」
「いいえ、違うのよ。爺さんに話したら、かんかんに怒ってひっくり返るんじゃないかって思ったらついね。『余計なお世話だ、お前はお前の心配をしろ』、あなたにきっとそう言うわ」
「心当たりはありますね。そういわれたら何も言い返せないです」
女性は一息つくと僕の瞳をまっすぐ見つめた。
「さて、こんな年寄りの与太話につき合わせちゃってごめんなさいね。そろそろ時間じゃなくて?」
「それもそうですね。それでは今日はここらへんで。またお会いするときは——」
「ううん、私はもう帰るよ。久しぶりに爺さんの顔でも見に行こうかね」
「そうですか。では……お元気で」
僕は軽い会釈をして彼女のもとに走って向かった。

「今日は面白い人に出会ったのよ。あなたそっくりな真面目で誠実で、どこまでも彼女想いの若い子よ」
「ふん、若くして死ぬような奴のどこが真面目なんだか」

最後まで読んで、最初から読み返しちゃいました。彼女も、同じところに来たのでしょうか、、 想像が膨らむ作品でした。