『都県境踏破記録 ~4 バリエーション訓練を兼ねて都県境~』

照は骨折後に登山の勘を取り戻そうとしていたところに、幸男から『どこか行かないか?』と誘いがあった。バリエーションルート訓練として丁度良いので、大寺山と三頭山境ノ尾根を歩くことにした。
季節は2月後半、ギリギリ杉花粉が飛ぶ前であり、花粉症の2人にとっては『このタイミングは逃したら、1ヶ月山に入れないよ』って話である。
奥多摩駅近くで幸男をピックアップして、奥多摩湖畔の一番奥、登山地図に記載の無い公共駐車場に車を停める、もう9時であった。登山口は目の前の売店右側にある小道である。湖畔周回遊歩道をのんびり歩く、対岸には雲取山の登山口があり、駐車場は今日も満車に見えた。県境の末端手前には前情報通りに通行止めとなっていた。手前の植林に入り込みショートカットを試みる。手強い急斜面、植林を降りるのは得意だが、登りは熊に追われない限り、苦痛でしかない。
何とか県境の尾根に乗ったが、幸男のペースに全然付いていけない照は、既に後悔し始めていた。それは地味な尾根だった、たった1時間の道程がとても長く感じた。
大寺山は雲取山や石尾根から見下ろせて、山頂には周りの景色と不釣り合いな白い建物が建っている。近づいて観てみると立派な仏舎利塔であった。大休憩を入れて、南斜面を下り始める、林道を降りていくと、トラックのスクラップが山ほどある。こんな山奥なので不法投棄ではないと思うが、いい気持ちにはならなかった。林道を歩いていくと、一軒の民家(空家)と開けた場所に出た、その前に本山行で唯一の霊長類、ニホンザルに遭遇した。枝尾根が複雑に出てくる急斜面をグングン降りて行くと、大月市に抜ける国道に出た、もう12時過ぎであった。金風呂と言われる地名であるが、特に温泉宿は見当たらなかった。
バス停近くの民家の間に細い道があり、その先には多摩川支流を越える橋があった。それを渡ると仕事道のような道が水平に続くが、その先は通行止め、手前の斜面をまた登り返す。少し登ると山葵田のある沢に出て、そこを遡上すると、トラバース道のような踏み跡を見付け、尾根を回り込む。
やっと境ノ尾根に乗ることができた。だが、既に疲れが溜まっていて、足の動きが悪い、前日と前々日に降雪があったようで、足元も悪い。
山梨県側の尾根と合流したところで、幾分歩きやすい道に代わったが、2人とも気持ちは折れていた。予定では三頭山山頂を踏むことになっていたが、時間的にも体力的にも精神的にも無理そうだ。気合いのみで最後の斜面を登って、三頭山北尾根に合流し、撤退を決断する。
ふかふかの積雪をズカズカと歩いて下る、照は面倒になるとお尻で滑り出した、真面目に歩くほど余裕はなかった。
駐車場の位置からして、ムロクボ尾根で下るのが良いと照は提案し、幸男も同意した。が、分岐に着くと幸男が『マジか?』という顔で見ている。そう、そこにあるのはロープと立ち木を握り締めないと、登り降り出来ない急斜面、以前照が登りで使って、『ここを下るのはアホだ』と言った場所だ。それを照は下り始めていた『はい、アホ達成です』幸男も引きながらも降りてきた。後はダラダラと長い尾根を下って、4時に下山完了。精神的に2つの山を登った感じで、とても疲れたのであった。
後に埼玉県と東京都の県境を踏破して、都県境の山間部を踏破完了できた。
【歩行距離11km、行動時間7h、県境6.5km】

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