『君との距離』

短編小説 

一. 距離
「寒いね。」
今日の最低気温はマイナス三度だ。これからもっと冷えるだろう。今日みたいに歩いて帰るのは辛い。
「困るね。」
隣で君が笑った。たしかにこの返答は変だったかもしれない。続けて君はこう言った。
「運命って信じる?」
 「どうだろうね。まだわからないよ。」
奇跡は確かに起こると思う。だけど、それが起こるべくして起こった運命だと言う確信は、今の僕は持ち合わせていない。
君は何かを言いたいような顔をしたけど、
結局何も言わなかった。
「運命なんて気にしていたら待つだけになって結局何もできなくなるよ。」
遠回しに何も言ってこない君を責める。
「私は信じるもん。」
 それは良い心がけだ。ぜひとも続けて欲しい。
「運命に頼りたいほどの何かが起きたの?」こう思うのが普通だろう。しかし君はこう言った。
「別に。」
「面倒くさいやつだな。」
君はムッとした顔をして歩きを早めた。
どうやら、最初に運命を信じることについて肯定しなかったのが気に入らなかったらしい。
「悪かったよ。」
と、一言残して君を家まで送り届けた。
 

二. 君
「今日は初雪が降るらしいよ。確かに今日は寒い気がしない?」
私は隣で歩く君に話した。
「確かに寒いね。雪が降ると通学が大変になりそうだね。」
別に私は、雪景色は好きだし、雪の日の通学は地面が滑って危ないけど、嫌いじゃない。
「運命って信じる?」
ふと無意識に言葉がでてきた。最近色々考えすぎていたのかもしれない。
「突然言われてもわからないよ。でも、あんまり興味はないかな。」
私が無意識にあんなこと言ってしまったのも悪いけど、そんなこと言わなくてもいいのに。
「どうしたの?」
さっきは興味がないって言ったくせに。話したくなるわけないじゃん。
「別にー。」
「そっか。さっきより寒くなってきたね。早く帰ろう。」
「うん。」

三. 仲直り
僕は休日の晴れた日に公園に行って写真を撮るのが好きだ。
しかも、今日は学校の振替休日なので公園には誰もいない。
静かすぎる公園も好きだけれど一人は寂しいので君を呼んでやる。
「もしもし、いま通学路の公園にいるんだけど、しょうがないから来てもいいよ。」
「何言ってんの。私が行くわけないでしょ。」
薄情なやつだ。せっかく呼んでやったのに。でも、どうせ何か理由をつけて君が来ることは知っている。
「何してんの?」
ほら来た。まだ三十分も経っていない。
髪が整っていないので、おそらく飛び出して来たんだろう。
「来ないんじゃなかったの?」
「平日の公園は最高でしょ。あなたがいなければね。」
面白いこと言う。
「もう少ししたら帰るけど。一緒に歩く?」
せっかく飛び出して来てくれたんだ。優しくしてやろう。
「うん。」
君が嬉しそうに頷いた。

四. 二人の距離
夕方、雪が積もった道を歩く。
景色としては良いけど帰り道としては最悪だ。
突然、君が口を開いた。
「ごめんね。私、引っ越すことになったの。離れちゃうね。」
僕は何も言えなかった。
「私は。私は別に寂しくはないよ。」
「どこに引っ越すの?」
「ここじゃない遠い所だよ。」
場所を答えてくれない。それくらい遠いんだろうか。僕はあまり実感が湧かなかった。
「いつ引っ越すの?」
「明後日。」
突然すぎる。まだ心の準備とか、餞別とか色々まだ準備していない。
「どうしてもっと前に言ってくれなかったの?」

「言いづらかったから。」
あの時の運命の話をもっと肯定的に聞いてあげればよかった。
「そっか。寂しくなるね。」
「…うん。」
もう引越しまであまり時間がない。会えるならできるだけ会っておこう。
「明日、予定空けといてくれる?」
「うん。」
「じゃあまた、明日。」
君が僕の袖を引っ張る。
「..うん。」
いつものように君を送り届けた。

五. 最後の日
今日で君と会えるのが最後だ。
本当の最終の日は学校があって行くことができない。
「お待たせ。」
いつもの公園で君を見つける。
「あ、うん。」
「少し歩く?」
「うん。」
今日は空気が冷たい。予報によると雪が降るみたいだ。
「昨日の夕方に急いで選んできたから微妙な餞別の品だけど、受け取ってよ。」
僕は、二人で撮った写真とマフラーを手渡した。
「今日みたいに寒い日にはそれ着けてくれたら嬉しいよ。」
「ありがとう。これは?」
「この前、君が偶然か知らないけど、公園に来たときに撮った写真だよ。」
カメラのレンズを気にする振りをして撮った写真だ。あとでいたずらに使おうと思っていた写真がプレゼントになるなんて。
「ありがとう。大切にするね。」
君が少し笑った。
「いつ出発なの?」
「明日の朝だよ。」
明日なのは知っていたけど朝だったのか。
これはもう会えないな。本当に今日で最後みたいだ。
「ねぇ。運命って信じる?」
「え?」
「運命。信じる?」
この問いはどこかで聞いた覚えがある。 
「前も言ったけど、私は信じてる。また会えるよね?」
僕は運命なんてあまり興味はないけど、運命を信じてまた会えるならいくらでも信じる。

「うん。また会えるよ。きっと。」
そう僕が言ったあと君は微笑んだ。

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