『怖がりな男』

気が付くと僕は真っ暗な部屋に横たわっていた。
ゆっくり立ち上がると、目の前にはベットのようなものがある。
そっと手を伸ばすと、ざらざらした肌触りの破れたシーツの感触があった。
周りにはさらに何個かのベットらしきものがうっすらと見えた。

「なんて気味の悪い場所なんだろう」
僕はかろうじて光が見える方へ歩き出すと、

グシャ

と音がした。
「うわあ」思わず声が出て近くのベットにもたれ掛かってしまった。
落ち着く間もなく、指先のヌルヌルした感触に気づき「あああああー」と叫びながらうっすら見える光の方へ走っていった。

バンッ

その先にあった扉を押し開け廊下に倒れこんだ。
廊下には窓があったが、長く大きい木の板で×印に釘打ちされてふさがれており外から入る光は足元がやっと見えるくらいの光しか通さなかった。
足元を見ながらしばらく廊下を歩いていくと突然、

バタンッ

と廊下の奥の扉が閉まった。
「ヒイッ」
その他に音は全く聞こえない。
僕は恐怖でその場にうずくまった。なぜこんなところにいるんだろう、早く出なきゃ。
そう思い立ち上がると、不意に背筋が寒くなる感じがした。
下に視線を落とし、勇気を振り絞って後ろを振り返ろうとしたとき、

ガチャ

先ほど閉じたはずの扉が開く音がしたのだ。
僕は恐怖のあまり体を動かすことができずにいると

「はぁ、、、はぁ、、、」

タッ、、、タッ、、、タッ

誰かが近づいてくるのだ。まずい、まずい、このままではまずい。
その思いとは裏腹に金縛りにあったように体は動かなかった。

タッ、、、タッ、、、タ

その足音は僕の前で立ち止まった。サンダルを履いているそいつの足がはっきりと見えたのだ。

「うわぁぁぁぁぁ」

僕は叫んでとっさに顔を上げると、鉄パイプを振り下ろす男の姿が。

「うわぁぁぁぁぁ」

その男は叫びながら鉄パイプを振り下ろしてきた。
僕はとっさに両手で振り下ろされる鉄パイプを止めようとした。

ヒュゥゥン

男の振り下ろした鉄パイプは空を切った。

「な、なんで」

男はそう言うと、ガタガタ震えだし、叫びながら何度も何度も鉄パイプを振り下した。

「うわぁぁぁぁぁ」

ヒュゥゥン
ヒュゥゥン

「うわぁぁぁぁぁ」

ヒュゥゥン
ヒュゥゥン
ヒュゥゥン

男の振り下ろした鉄パイプは僕の手、頭、胴体をすり抜けて空気を切る音だけが響き渡った。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。