『夢はお金持ち』

「もっとお金があれば幸せな暮らしができるのに」
K太の両親の口癖はいつもそんなものばかりだった。
小学生のK太は幼心にこう思った「絶対にお金持ちになってやる!」

小学生の時のK太は、月に一回両親と家族3人でテーマパークやハイキングに出かけたりしていたが、ほとんどの休日は家で≪賞金獲得を目指すクイズ番組≫を観ていた。
K太はたくさんのお金が手に入る想像をして「もしお金があったら色んな所へ旅行できるしあれもこれも好きなものが買えるなぁ」とワクワクしていた。

中学生になったK太はバスケ部に入部した。
バスケ部に入ったのはもちろんNBA選手になるためだ。クラスメイトから「NBA選手になれば年俸数十億円もらえるらしいぜ」と勧誘を受け入部したのだ。
K太は3年間の間、数十億円の年俸がもらえるのを夢見ながら真面目にバスケに取り組んだ。

大学生になったK太はとあるセミナーへ行くことにハマっていた。
「このセミナーでは日本一簡単なお金の稼ぎ方を教えています。」
「もしこの素晴らしいセミナーを知り合いや友人5人に紹介していただいた方には報酬として○○円をお渡しします」
登壇していたスタイルの良い中年男性は高級そうな腕時計をつけた左手をマイクに添えてそう言った。
K太は「そんなに簡単にお金持ちになれるのか」と不安を抱きつつもしばらくそのセミナーに通った。

社会人になったK太は怪しいセミナーから足を洗い、サラリーマンとして会社勤めしていた。
社会人5年目のK太は「お金持ちとは何なのか」わからなくなり悩んでいた。
そんな時、会社の同僚に誘われていった飲み会でY美に出会った。
Y美は細身のショートヘアで、素朴な印象の女性だった。
はじめこそ会話が弾まなかったが、K太と同い年であることと「お金持ちになるのが夢」という話から意気投合し仲良くなった。
彼女は「節約術」に長けていたので、K太は二人で力を合わせてお金持ちになる未来図を描きワクワクしていた。

10年後、K太はとんとん拍子でY美と結婚し2人の子どもが出来ていた。
家族が増え、出費も増えていたK太一家は節約の日々に明け暮れていた。
K太は隣の激安スーパーへの買い出し、お店のポイントカードの収集、お金のかからない趣味としてランニングの採用。
節約に明け暮れる日々だったが、これだけの節約をしていれば将来必ずお金持ちになれると考えワクワクしていた。

サラリーマンを定年退職したK太は、アパート経営を始めていた。
子ども達には孫が生まれ、その可愛い孫たちに向かっていつもこんなことを言っていた。
「おじいちゃんはなこれからすごいお金持ちになるんだぞ~」
K太は毎月振り込まれるアパートの家賃収入を通帳で確認し、順調にお金持ちになれそうだと思ってワクワクしていた。

さらに月日は流れ、経営するアパートの数も2つから3つに増えていた頃、K太は病院のベットにいた。
病人ではあったが口調はしっかりしており、その目には生気が宿っていた。
病床へ妻のY美、子どもたち、孫たちがお見舞いに来るたびに、「この病気が治ったら、次は投資でお金持ちを目指そうと思う」と語っていた。
そしてとある晴れた日の朝、家族に見守られながら息を引き取ったのだ。

この短編小説にはまだコメントがありません。
ぜひ一番最初のコメントを残しましょう。