『モニターから映る美しき世界にクソくらえ』

私はただゲームをしていただけなんだ。
24インチから映し出される世界は、私を夢中にして興奮と喜びで抱きしめ、絶望で私を粉々に砕いた。

プロゲーマーは子どもたちの憧れで、将来なりたい職業のランキングではプロ野球、サッカー選手、医者、そしてプロゲーマーとランキン上位常連の職業となるくらい定着した。
小中学校では体育の授業にゲームが盛り込まれ、動画配信サービスで放送されるesports最大の祭典IEMは、サッカーのワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグ、メジャーリーグのワールドシリーズ、NFLのスーパーボウルに匹敵するくらい世界が注目する大きなイベントになった。
プロゲーマーの年収は青天井で、米誌「Forbes」が発表した「世界で最も稼ぐスポーツ選手」では、1位はレアル・マドリードのロベルト・シウバ、2位はクリーブランド・キャバリアーズのマーカス・デービス、そして3位にプロゲーマーのAZ Gaming所属のRK.NoVaと年収でもプロゲーマーは他のプロスポーツ選手と肩を並べた。
かつては”地下室のオタク達”と揶揄してバカにしたマスコミやメディアは金になるとわかった瞬間手のひら返し、プロゲーマーを神様や仏様のように祀った。

私もプロゲーマーに憧れる子どもたちの一人で、中でも”FPS”が大好きだった。
(※FPSとはシューティングゲームの一種で、主人公の本人視点でゲーム中の世界・空間を任意で移動でき、武器もしくは素手などを用いて戦うアクションゲーム)
初めてやったときは脳内からセロトニンが水道管が破裂したように出てきて、幸福感で溺れ死にそうになった。
学校から帰ってくれば、友人と無料通話アプリをつなぎ、ゲームを起動した。
そんな毎日だった。
友人が「大会に出てみない。」と言ってきて、「いいよ。出ようぜ。」全てはこんな会話から始まった。
大会に出ると僕らは破竹の勢いで勝ち続け優勝を手にした。
「優勝は祐介、優馬ペアです。」と大会の主催者兼司会者言うと、私達は拍手と歓声の津波にのまれた。
優勝賞金の10万円ともっと大きな大会の出場枠を貰い、横浜の中華街で一気に使った。
「なぁ祐介、北京ダックだ。俺始めてみたよ。」と優馬が興奮しながら言うと、私は「こっちはフカヒレスープだぞ。」と言いながら僕たちはこの高級料理の味はたいしてわからなかったが、この世界の一部の高所得者が食べている料理を感じているだけで楽しかった。
帰りの東横線の電車に揺られながら、「次勝ったら、何を食べる?」と優馬は腹に入れた中華料理を感じ黄昏れている私の顔をまるで彼女みたいに覗き込んで言った。
「フランス料理が食べたいな。フォアグラとかいうやつを食べてみたい。」とまだ次の大会で優勝もしていないのに賞金の使い方を興奮しながら話した。
今思えばこのときが最高に楽しくて、私達は幸福感を体全体を使って味わっていた。
私達は次の大会も勝ち続け、ついにはアマチュア最大の大会でも優勝した。
横浜アリーナで私達は抱きあい「俺たちは、やったぞ。」と悠真が言うと、私は「夢みたいだ。本当に現実ではないみたいだ。」とお互いに現実をなぞるように確認しあった。
抱き合って喜ぶ私達に四方八方から撃ち出される拍手と歓声に包まれ、僕たちは大きなミキサーに入れられて、拍手とと歓声でぐちゃぐちゃされたような気分だった。
マスコミやメディアの膨大な量の取材が大会終了後がら、ひっきりなしで入り。
立っているのがやっとのくらい、私達はクタクタになった。
その後の一週間は、プロゲーマーのチームを持っている会社からのオファーが履いては捨てるほど私達のもとに届いた。
私は通信事業最大大手のASIAN DATEで決めたが、悠馬は他の会社に決めた。

契約はASIAN DATE本社の応接室で行われた。
ゼネラルマネージャーの大津梨花さんと一対一で行われ。
「なんですか、その辞書みたいなものは?」と私が言うと、大津さんは「祐介様の契約書です。」と言われた。
私はアマチュアからプロになると確信し、頭が真っ白になった。
その後の会話はまったく頭に入ってこず、ただ頭に残っているものはASIAN DATEの保有しているプロゲーマーと共同生活を行うという事、そして契約金が2億円ということだけだった。

共同生活初日、自宅にはタクシーが来て、私を寮まで連れて行った。
寮を想像していたので、アパートかと思ったら全然違った。
六本木のタワーマンションでエントランスに入ると大津梨花さんが私の到着を待っていた。
「お待ちしておりました。」と笑顔で大津さんは私を迎え入れた。
大津さんについて行き、エレベーターに乗り部屋に言った。
「部屋には3人います。稲川選手、山本選手、マーク・ウィリアムズ選手とりあえずこのメンバーで共同生活していただきます。」
「外国人選手もいるんですね。」
「はい。自動翻訳機があるので言語は問題ございません。」
そんな会話している家に部屋についた。
部屋に入ると、チームのメンバーが蜂の巣を叩いたかのように飛び出してきた。
「祐介よろしく。一緒に優勝を目指そう。」
「こちらこそよろしく。お願いします稲川さん。」
稲川さんと握手を交わした。
「祐介待っていたよ。ここの施設はすごいぞ。」
「こちらこそよろしく。そんなにすごのか?」
ウィリアムズと握手を交わした。
「祐介よろしく。君がここに入ってくることを聞かされたときから楽しみに待っていたよ。」
「こちらこそよろしく。私もここに入ってくるのを楽しみにしていたよ。」
山本選手と握手を交わした。
部屋のリビングには中央にPCが4台あって、六本木の大都会を一望でき、室内はものすごく広く、私は世界が私中心回っているのではないか、そんな感覚に陥った。
大津さんから機材の説明を受ける「こちらが専用PCです。」
スポンサーから提供された。
私専用のハイスペックPCで、PCを立ち上げると、まるで命が吹き込まれたように、まばゆい光を放った。
ゲームを立ち上げると、見たこともないモードがあった。
「こちらは、ASIAN DATEが莫大な予算を投じて作った。プロゲーマーによる、プロゲーマーのための練習モードです。」
そこのモードはいつもと全然違った。
まるで本当の戦場に行って戦っている気分になった。
私はこのモードにのめり込んだ。
「ウィリアムズこれすごいよ。」、「稲川さん、こんなヘッドショット受けたことがないよ。」、「山本さん、相手すげぇよ。なんであんなことできんだよ。」とこのプロ仕様のモードで戦う相手に興奮しっぱなしで、その興奮を抑えられず子供のようにメンバーに知らせた。

その頃、シリアやソマリアなどの内戦地域では、奇妙な報告が飛び交った。
”嘘じゃない。アイアンマンみたいな敵兵がいるんだ。”
”頭つらぬけば、停止するぞ。”
”絶対に近づくな、頭を貫いたら爆発するぞ”などの報告が飛び交い混乱した。
戦線には無線で操作する無人の人形戦闘機が最前線に送られ、国連にとって都合の悪い奴らを駆逐する作戦に加担していることを、私はまだ知らない。

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