『失踪艦隊』

 合衆国に宇宙軍が発足して半世紀が経った。
 その五十年間で人類の宇宙開発は飛躍的に進歩した。
 スペースコロニー、月面基地、火星植民地。宇宙人口はすでに地球人口を上回り、人類はついに外惑星、つまり火星より外側の宇宙へと歩を進めようとしていた。
 その背後に、合衆国宇宙軍の庇護があった事は否めない。
 しかし、忘れられている事実もあった。
 
 合衆国宇宙軍任務中失踪者、1300名。

 それは合衆国が民衆にひた隠しにする、負の歴史だった。
 彼らの失踪理由はほとんどが事故によるものだ。行方不明者はすぐに見捨てられた。捜索されることもなかった。
 合衆国は力づくで遺族たちの口を封じ、五十年間その事実を隠し通した。

 その日、までは。

 その日、世界中の報道がジャックされた。
 全世界の画面に映った男は七十近くにもなろうという老人だった。

 ーー‘我々は”失踪艦隊”。我々はこの五十年間黙殺された時代の亡霊だ。火星より外側の宇宙は我々が支配する。’

 同時に、火星植民都市から、小惑星帯に数百隻の大艦隊が観測された。
 多くの人々は戦慄した。全てのスペースコロニーが震撼した。国防省は、突如迫った宇宙戦争の脅威に慄いた。

 しかし、地球の小さな町に住む老婆は違った。
 老婆の目からは、大粒の涙が止めどなく流れていた。その手には、しわくちゃになった結婚式の写真が握られていた。

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