『温度差(バスケ編1)』

バスケットボールファンには見逃せない一戦が行われることになった。
南国のチームで泥臭くも熱いプレーが特徴の「Heat」、北国のチームで冷静で戦略的な攻撃が持ち味の「Cold」の対戦だ。
この試合を観に来た一組のカップルにB太とY美がいた。

「おっ、Heatの選手たちが試合前のルーティンで円陣を組んでるぞ。いよいよ試合が始まるって感じだな~」
B太が興奮気味に話す横の席では、Y美がスマートフォンをいじる横目にコートを見て
「coldの選手はそんなことしてないわ」
すかさずB太は眉間にしわを寄せて
「あれは、選手一人一人が精神統一をしているんだ。人を寄せ付けないオーラを放っているだろ?」
「ま、まぁね」

そんなことを話しているうちに試合は始まった。
12分×4Qあるうちの2Qが終わった時点では互角の戦いだった。
Heatはマッチョな選手が多くダンクやアリウープ、さらにはスリーポイントと派手なプレーを繰り広げる。
一方のcoldはオフボールスクリーンから敵の裏を狙ってパス&ゴール下シュートやチームメート5人全員の複雑なパス回しからミドルレンジシュートを決めて応戦した。
1Q heat 26-25 cold
2Q heat 48-49 cold

「なんてわくわくさせる試合なんだ。お互いの良さが存分に出てる!」
「特にcoldのチームのシュートセレクションは抜群だよ。いいパスをもらったら無理してスリーポイントを打たず、ロングレンジの2ポイントを決めるんだからさ。」
「いやー、ほんとにいい試合を観に来たなぁ。Y美はこの試合どう思う?」

会場で買ったコーラをストローで飲みながらY美は思い出したように言った。
「ダンクがすごいね」

「そうだよなぁ。heatの○○って選手は今年のダンクコンテストで、、、」
B太が夢中になって語っている途中で後半戦が始まった。

後半の出だしはheatが流れを引き寄せた。
ディフェンスではcoldの細かいパスをスティールし、オフェンスではゴール下のポストプレイでファールをされながらもダンクを決め雄たけびをあげた。
3Qの終わりにはheatが連続でスリーポイントを決め、一気に会場はheatムードになった。
3Q heat 85-70 cold

「くぅ~。heatのセンターはほんとにシュートが力強いな。」
「ゴール下でボールをもらったら何が何でもシュートをねじ込んでる印象だわ。」
「対するcoldは追いかける展開だから、ゲームテンポを早くしていかないと追いつかないな。Y美はどう思う?」

Y美は小さい鏡をのぞき込んで化粧直しをしながら
「早くシュートを打つってことでしょ」

「その通りだよ。早くっていうのはショットクロックが10秒を切る前に、、、」
そう言ってるうちに第4Qが始まった。

heatは良い流れをそのままに点差を20点まで広げたが、そこからcoldの反撃が始まった。
ディフェンスでは疲れ始めたheatの選手に対してダブルチームで対応してボールを奪い、オフェンスでは前半全くシュートの入らなかった選手が表情一つ変えずスリーポイントをバンバン決め始めたのだ。
4Q 残り5分 heat 93-88 cold

heatは敵がダブルチームで守っており必ず味方選手1人が空いていたので、その選手にボールを回しスリーポイントを打たせた。
coldも負けじと正確無比の無表情シューターのスリーポイントシュートで追いすがる。
4Q 残り1分 heat 102-100 cold

coldは相手のスリーポイントを防ごうと外側のディフェンス強化に転じた瞬間、heatは待っていたかのように前半のダンク男がド派手なダンクを決めたのだ。
負けていたcoldはスリーポイントで効率よく点差を縮めようとしたが決まらず。そのままheatがリードを守り切って勝利したのだ。
試合終了 heat 106-103 cold

「coldは惜しかったな~。4Qで無表情シューターが3本連続でスリーポイントを決めたときはイケると思ったんだけどなぁ」
「最後はまさかダブルチームで止められてたダンク男が決めるとは衝撃だったよ。」
B太は試合会場の退場ゲートから出てからY美に言った。

Y美は帰り道に寄って行きたいと言っていたカフェの方に向かって歩きながら
「スリーポイントシュートがすごかったね」
「そうなんだよ、あの試合終盤にスリーが入り始めたのは前半に布石があって、、、」

2人は観戦者たちの帰宅ラッシュの中、手を繋いで帰っていった。

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