『新しい家』

「今日で何個目の新居を見に行くだよ」
ここ最近の週末は、新居探しに家族で出かけることが増えた。
車に数時間揺られ着いた先は、岡山県の海が見渡せる新居候補だ。
出かけるタイミングがだいぶ遅れてしまったせいで着いたのは、15時を回ったぐらいだ。
元々、予定していた時間よりも遅れてしまったため新居を見れる時間は1時間程度だそうだ。
初日のみ、不動産のおじさんが立ち会ってくれる。
新居をじっくり見れる時間が、あまりないため明日も観てもらって構わないとのことだった。
ただ、明日はおじさんも立ち合いが難しく新居のカギを渡しておくため帰る際には鍵をポストに入れておいてくれたらよいとのことだった。
「近くの公園で、まゆ子と遊んできてもいい?」
まゆ子とは、僕の妹で今年で5歳になる。
「夕方には戻ってくるのよ。この新居を観ているから」
母は僕たちに声をかけた後、父と不動産のおじさんと共に新居に向かった。
僕は、まゆ子の手を引き近くの公園に遊びにいった。
海が見渡せる大きな公園であり、ブランコや砂場、すべり台も普段見ているものよりも長めのものだ。
「お兄ちゃん、あそこに4人、人が立ってこっちをみてる」
まゆ子が指を差したところは、公園のすみっこに設置されている小さなお社だ。
「わ、なんだ!」
目の前が急に真っ暗になり、何も見えない。
(目を開けたいけど、明らかにお社あたりから危険なモノを感じ怖くて開けられない)
口に出すと見えない何かに連れていかれそうだ。
思考がまとまらず、どうするか逡巡しているとどこかから声が聞こえてきた。
「・・・にぃ・・・ち・・・。おにいちゃん」
隣で、まゆ子が腕を引っ張り声をかけてくれていた。
「ありがとう、まゆ子。そろそろ戻ろうか」
まゆ子に声をかけ、新居へと歩き出した。
時間はもう夜に近づいており、今日は近くのホテルで1泊をすることになった。

翌朝、新居へと家族で向かった。
昨日とは違い、今のところ恐怖を感じるようなことはない。
「新居のカギも借りれて、今日はラッキーだったな。ゆっくり家をみることにしよう!」
父は、僕たちに話をすると新居へと一番に入っていった。
その後、母、僕、妹の順番に入っていく。
「ここの新居、40坪ほどあるんですって!」
母が、興奮気味に僕たちに説明してくれた。
「ただ、ここに来た時から少し気味が悪いのよね。出入り口のドアも確実に閉まらないで少し開いてしまうし、、、」
母は、昔から少し霊感があるらしく、たまに幽霊も観たりするようだ。
「ドアなんて、決めてから交換したらいいだろ」
先に2階に上がっていた父から声が飛んでくる。
「少し外の空気を吸ってくるわ」
母が2階に向かって声をかけると、2階から父が手を上げ答えた。
僕たちも母と一緒に外へと出た。
「なんかインコがあそこに止まっているわね」
僕は、インコの話を聞き見上げるとそこには赤と黄色がベースのインコがいた。
インコは、隣の建物屋上付近に止まっている。
昨日は、気づかなかったが隣の建物は少しおかしな感じがした。
大小様々な立方体を繋げたような建物で、ぱっと見たところ学校の理科室みたいな感じもする。
「少し観に行ってみようよ」
好奇心とは、怖いもので僕たちは隣の家を見に行くことにした。
近くの窓から、中を覗くことが出来そうだった。
人影もなさそうだ。
「カラフルなとりさんがいっぱいいるー」
まゆ子が鳥の話をしたときに、僕も中を少し除きこんだが確かに鳥がたくさんいる。
それも、色とりどりのインコが何十羽もいる。
インコたちが円形に集まり、その真ん中に何かが置かれている気がしたが僕の角度からは見えないようだ。
「早くここから、立ち去りましょ」
母がそうつぶやくと、僕とまゆ子は手を引っ張られ新居へと戻る形となってしまった。
「この新居を見ることは止めて、もう帰りましょ」
「まだ見れてないところもあるけど、本当にいいのか」
「やっぱり、気味が悪いし隣の家もおかしい、、、早く帰りましょ!」
「隣の家がどうかしたのか」
「ここでいうのは、、、早く帰りましょ!」
「わ、わかった」
両親のそんなやり取りを聞き、新居を後にした。
帰る途中、不動産のおじさんより連絡があり新居を見終わったのであれば私の家に一度来てもらえないかと父の携帯に連絡が入った。
おじさんの家は、連絡をもらった場所から比較的近い場所だった。
おじさんの家に着いた僕たちを快く迎えてくれた。
「新居の中、広かったでしょ。この座敷でくつろいでいてください。お茶を用意しますので」
おじさんはそういうとお茶を用意するために、キッチンへと消えていった。
「少し疲れたね。まゆ子も途中から寝てたもんね」
「まだ眠い」
「少しゆっくりしたら、家に戻ろう」
5分程した後におじさんが、戻ってきてお茶を用意してくれた。
「もしよかったそこにある仏壇に拝んでいってください。このあたりの神様を祭っているんです」
「僕は遠慮しておきます」
「私も遠慮しておきます」
両親は、二人とも拝むことはしないようだ。
「せっかくだから、拝んでおくよ。まゆ子はどうする?」
「私もおがむー」
二人で仏壇の前で、手を合わせて数十秒ほど拝む。
その後、両親は席を立ち出口まで向かうと車に乗ってどこかへ行ってしまった。
「おやおや、どこかお買い物ですかね」
「家に帰るだけ、、なんですが、わからないですね」
車の中でも、後は家に帰るだけと父から聞いていただけに僕たちを置いて出かけた理由はわからなかった。
「君たちの行いは正解だ!」
おじさんは、僕たちを見た後笑顔で答えてくれた。
その後、まばゆい光に包まれて目が覚める。

「僕は、どうなって、、、」
まだ状況が読み込めない。
回りを見渡すとボンネットが盛大にへこんでいる車が横たわっており、近くにはまゆ子がいた。
両親は近くにいなかった。
「まゆ子、大丈夫か」
「お兄ちゃん、、ここどこ」
まゆ子も、状況が読み込めていないようだ。
「確か車の中で、父さんが話に夢中になって気が付いたら崖におちて、、、」
やっと記憶が徐々に戻ってきたようだ。
僕たちは、新居に向かう途中事故を起こして崖下に落ちたようだった。
「新居を探しに来たのに、家庭を失ってどうするんだよ」
現状をよく理解するのには、まだまだ時間がかかりそうだ。

その後、両親は1か月後に近くの島で遺体となって発見された。
両親の死体は、全身にカビが生えたような形で息絶えていたようだ。
母が新居の隣りで、何を見たのか僕にはわからない。

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